ミックスフライ定食は邪道なのか。
ぼくは九州男児である。ってのが関係してるのかどうかは知らないけど、食べものや飲みものについて、王道を愛好する癖(へき)がある。
たとえば、ポテトチップス。これはもう、コンソメやらなんとか醤油やらの味つきはありえず、ぜったいに「うすしお」であるべきだと思っている。かっぱえびせんも、なんちゃらビネガーみたいな味は即刻却下で、ふつうのしお味しか口にしない。スタバでも、ほにゃららフラペチーノみたいなやつは飲んだことがなく、男は黙ってブラックコーヒー。とこころに決めている。
さて、うちの会社の近くにとんかつ屋がある。ここに行くとき九州男児のぼくは、いつもヒレカツを注文していた。ときどきロースカツを頼むこともあったけど、基本はヒレカツだった。ミックスフライ定食なんか、見向きもしない。だってお前、ここはとんかつ屋だぞ。なんで「フライ」なんぞを食わなきゃならんのだ。そんなふうに鼻の穴を膨らませていた。
そしてきょう、どういう気の迷いからか、ミックスフライ定食を食べた。
うまかった。
びっくりするほど、うまかった。
メンチカツとイカフライと、ひとくちヒレカツの組み合わせ。
味にバリエーションがあるとは、こんなにしあわせなことなのか、と歓喜号泣した。「フライ、意外といいじゃん!」と故ハンス・ナイマンみたいなことさえ思った。
けれども、ふと気づいた。
メンチカツをひとくち食べ、「なかなかいいじゃん」と唸る。イカフライをひとくちほおばり、「これも悪くないね」とにやける。わくわくしながら、違う味、違う食感をたのしむ。
でも、そのわくわくの源は「最後にとっておいたヒレカツ」だったのだ。
最後のおたのしみとして、ヒレカツが待っていること。それがぼくのミックスフライ熱をぐいぐい引き上げていたのだ。……だったら最初からヒレカツ定食を食べればいいじゃん。
とんかつ道は、長く険しい。