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不良がいなくなったその理由。

不良といえば、○○だった。

いまや不良ということば自体が死語になりつつあるけれど、ヤンキーの名に取って代わられるまで彼らは、不良と呼ばれていた。そして漫画であろうとドラマであろうと映画であろうと、そこに登場する不良たちは決まって煙草を吸っていた。不良は、未成年の中高生であることがほとんどであるため、煙草は立派な違法行為だ。身体にいいとか悪いとか言う以前に、法的にアウトな行為だ。そして不思議とフィクションのなかに登場する不良たちは、あまりお酒を嗜まない。ビールや焼酎を飲みまくる描写はほとんどなく、ただ気持ちよさげに、あるいは腹立たしげに、煙草をくわえている。

そして煙草の一歩手前にある不良っぽい行為、生意気な行為として、ガムがある。たとえば授業中にくちゃくちゃガムを噛む生徒。親や教師に説教されているなか、くちゃくちゃガムを噛む子ども。警官の職務質問に対して、ガムを噛みつつ応答する少年。法を犯しているわけではない。ガムを禁止する法律はどこにも存在しない。けれども人前で、とくに目上の人の前でガムを噛むことは非常に無作法で生意気な行為とされてきた。ワールドカップのフランス大会では、試合中にガムを噛んでいたといってゲスト解説者の怒りを買っていた選手もいた。


それで現在。テレビドラマのなかに喫煙者はほとんど登場しない。中高生役の俳優さんに喫煙させないのはもちろんのこと、会社員役の俳優さんだって煙草を吸うことはしない。かろうじて極道映画で反社会的勢力の方々を演じる際に、煙草が登場するくらいだ。

そしてまた、ガムもあまり見ない。実際のコンビニエンスストアを覗いてみるとよくわかるけれども、ガムと飴はいつしか「機能」ありきの健康増進食になった。つまり、キシリトール配合のガムは虫歯予防のために噛むものであり、はちみつやプロポリスを含有する飴は喉の痛みや炎症を緩和させるものであり、いまの季節だと熱中症予防の塩飴みたいなものも売られている。そこにもはや不良性はなく、いまのドラマや映画でガムをくちゃくちゃする「ワル」がいたら、相当に浮いた演出になるだろうと拝察する。

一方、現在コンビニエンスストアのガム売り場でおおきな勢力となりつつあるのが、グミである。グミに健康増進効果は、おそらくない。そしてガムと同じくグミは、くちゃくちゃ噛むものであり、見る人が見ればお行儀の悪い食べものだ。

しかしながらグミは、どうも児童向けの菓子といったイメージがあり、映画の悪役がくちゃくちゃグミを噛んでいても、あまり不良性を感じない。いや、むかしから「ロリポップキャンディーを舐める狂気の人」みたいな悪役は多いし、そういうグミの使い方もあるだろうけれど、やっぱりグミはだめだろう。だってグミだもの。赤や緑のぶよぶよで、くまさんのかたちなんかをしてるんだもの。

煙草が消え、ガムが消え、口寂しさをグミでなぐさめる令和の現在。
そりゃあ不良も死語になるわけだ。