個人事業主時代の屋号。
フリーランス、すなわち個人事業主だったころの話である。
ぼくが独立した当時、世のなかにはまだ gmail のサービスは存在しなかった。そもそも google さえない時代だ。なので当初はプロバイダから与えられたメールアカウントを、ふつうに仕事用として使っていた(ちなみにぼくはニフティだった)。やがて確定申告まわりに詳しい友だちから、ぜったい青色申告にしたほうがいいと勧められた。そして青色申告をするためには、「開業届」なるものを届け出る必要があり、そこには「屋号」を記入する欄があるのだという。屋号とは、八百屋さんでいえば「○○青果店」みたいな名前のことである。
法人名ではない、ただの屋号だ。おそらく名刺にそれを記入することもない書類上の名前だ。従業員もアシスタントもいない、正真正銘の個人事業。さほど深く考えることもなくぼくは「オフィス・コガ」という屋号を選んだ。いかにも「練りに練りましたよ!」的な屋号をおのれに与えるのは、気恥ずかしく感じられたからだ。
すると友人は、屋号の名前で独自ドメインを取得して、仕事用のメールアカウントはそちらに切り替えたほうがいい、と言う。そのほうがプロバイダのアカウントを使っているより対外的な信用が高まるというのだ。
よしわかった。これを機に、屋号をもとにしたドメインを取得しよう。ぼくは意気揚々と「office-koga.com」のドメインを取得した。
さあ、ここで困ったのがメールアドレスの設定である。ふつうに考えれば、メールアカウントは自分の名前が入ったアドレスを設定する。ぼくの場合でいえば、
koga@office-koga.com
だ。しかしながら koga の4文字が二度もくり返されるのは、なんだか気持ちが悪いしバカっぽい。かといって、
info@office-koga.com
みたいなアドレスにするのも、「なにがインフォやねん」と自分にツッコミを入れたくなってしまう。じゃあ、
k@office-koga.com
みたいに koga をくり返さないイニシャルにするのか。それはそれでカッコ悪くないか。あるいは下の名前を使って、
fumitake@office-koga.com
にしたり、そこから派生したあだ名である、
fumiken@office-koga.com
にするのか。当時はまだまだ電話口の口頭でこちらのメールアドレスを伝えることも多かったため、「ふみけん、アット、オフィス、ハイフン……」などと説明するのは、途方もなく恥ずかしいことのように感じられた。
最終的にどんなメールアドレスを選んだのか。スパム対策もあり、ここには書けないのだけれど、とりあえず「個人事業主の屋号におのれの名前を入れるのはよしたほうがいい」と思ったのをよく憶えている。
そういう苦労を考えると、gmailってほんとにありがたいサービスですよね。