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「コーヒーがおいしい」のしあわせ。

やっぱりこれは、うまいんじゃないか。

きょうの昼、わりと好きなお店で日替わりパスタのセットを食べた。きょうの日替わりは、「完熟ミニトマトの冷製パスタ」とか、なんかそういうものだった。ところで冷製パスタということばを聞くと、ぼくはいつもイタリア料理が歩んできた道のりに思いを馳せる。だって冷製パスタって、早い話が冷やし中華のスパゲティ版だ。冷やし中華と同じ理屈でいえば、「冷やしイタリアン」と名づけられてもおかしくない料理だ。しかし、冷製パスタが普及したと思われるアフター・バブル期においてイタリア料理は、おしゃれな料理の代名詞であり、断じて「冷やし〜」の名を許さなかった。むしろ「冷製パスタ」というネーミングを発明できたことではじめて、料理自体の普及が図られた。そんなふうに邪推している。

……とかなんとか考えながら無事に冷製パスタを食べ終わると、食後のコーヒーが運ばれてきた。うんうん、ここのコーヒーって、案外バカにできない味なんだよなあ。と、ひと口飲んでおどろいた。

まずい。

やたら酸味が強いのはそういう豆や焙煎の仕様なのだろうから仕方がないにせよ、まったく味が扁平で、なんの香りもしない。たとえるなら、歯みがき直後に飲んだコーヒーみたいな味だった。

もしかしたらこれ、コロナの初期症状のひとつとされる味覚・臭覚障害なのだろうか。不安を抱えながら、オフィスにたどり着く。オフィスに戻って、あらためて「いつものコーヒー」を淹れ、その味を確かめる。


うまい。めちゃくちゃに、うまい。


なるほど、あの店のコーヒーがまずいというよりも、いつも会社で飲んでるコーヒーがうまいだけなのだな。会社のコーヒーがうまいって、しあわせなことだよな。

別に、そこまで特別なコーヒーを飲んでいるわけではない。だいたい会社では、堀口珈琲か丸山珈琲の、ごく標準的なブレンドを飲んでいる。いろんな豆を試した結果、普通のブレンドに落ち着いたのだ。



1994年、サッカーの三浦知良選手がイタリアのジェノアというチームに移籍した。帰国後、テレビ番組で「やっぱり本場のピザやパスタはおいしいですか?」と聞かれた三浦選手は、もちろんそれもおいしいけれど、本場のエスプレッソコーヒーにぼくはおどろいた。あんなにおいしいコーヒーは、日本じゃ飲めないよ、と語っていた。イタリアのピザやパスタではなく、あえてコーヒーのおいしさを語る彼が、なんだかとてもカッコよく見えた。

「コーヒーがおいしい」が象徴するしあわせって、あるよね。