ついにわたしも「そっち側」の人間に。
自分は「そっち側」の人間じゃないと思っていた。
「世のなかには二種類の人間がいる。ひとつは〜」という物言いをするつもりはないのだけど、心のどこかでそう思っていたのかもしれない。すなわち、世のなかには「スマホを割る人間と、そうでない人間とがいる」のだと。
きのうの夜、タクシーから降りようとしたところ、左のポケットからこぼれたスマホを盛大に落下させた。「おっとっと、危ない危ない」。拾い上げながらぼくは、スマホを置き去りにし、紛失しなかった自分の冷静沈着さをほめ、あの程度の酒で酔うものか、おれは全然酔ってないぞと鼻息を荒くした。
そう、昨夜のぼくは友人たちに相談事を話し、ほんのりアルコールが入っていたのだ。
そして帰宅後、メールとかいっぱい来てるんだろうなあ、こわいメールが来てたらいやだなあ、と思って手帳型スマホケースを開くと、画面がげしゃげしゃに割れていた。
芸人さんでもあるまいし、ぼくは「いいネタができた」と思った。「明日のブログはこれを書こう」と思った。そしてげしゃげしゃに割れたスマホ画面の証拠画像として、スクリーンショットを撮った。「ほら、こんなに割れちゃったんです」。そんなふうに写真付きで掲載しようと思ったのだ。
スクリーンショット画像は、ちっとも割れていない。
ぴかぴかのつるつる、舐めたくなるほどに美しい iOS。
数秒間の混乱後、ぼくは自分がしこたま酔っていることを自覚した。
違う、これはおれがアホなんじゃない。酒のせいだ。酒の精が、ぼくの頭脳にいたずらをしかけているのだ。
翌朝、つまりは今朝、げしゃげしゃのスマホ画面を眺めながら思った。おれは「割らない側」の人間だったはずなんだけどなあ。なんだか少し、ショックを受けているのである。