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ここに一枚の写真がある。

ここに一枚の写真がある。

列車内で満ち足りた笑みを浮かべる、ふたりの男の子を写した一枚だ。栗色の髪をした、白人の男の子たち。年の頃は6〜8歳だろうか。兄弟にも見えるふたりはプラスチック製の長座席に並んで座り、足をぶらつかせている。窓が写っておらず、時間帯はわからないものの、足もとのゴム長靴からその日が雨模様であったことが伺える。寒い季節なのだろう。ふたりともニットセーターの上に、薄手のダウンジャケットと、紺色のウインドブレーカーをそれぞれ羽織っている。背もたれにゆったりと身を預ける彼らを、ひとりずつ見ていこう。

まずは向かって左側、長座席の端に座る、弟らしき男の子。隣の男の子に比べ、ひとまわり身体が小さい。小学一年生くらいだろう。インディゴブルーのジーンズは、裾がきれいにベージュ色のゴム長靴に収まっている。ひときわ目を引くのが、白のニットセーターの首元に付着した、食べこぼしの跡だ。チョコレートなのかソースなのか、茶色い食べこぼしの跡がいくつも見られる。もっとも、本人はそれを気にする様子もなく、ほんの少しだけ口を開け、満足げな笑みを浮かべている。ニットセーターにはブルーとブラウンのストライプが入っており、その色は褪せきっている。着るたびごとに頑固な汚れをつけ、何十回となく洗濯されているのだろう。

一方、その右手に座る男の子の服には、食べこぼしの跡が見られない。首元の白いニットセーターは、裾にかけて青へとグラデーションをつくっている。やや色褪せ、くたびれたジーンズ。その裾は赤いゴム長靴に収められ、弟よりもほんの少し長い足を座席からぶら下げている。目を閉じて、歌うように開かれた口元。きっとたのしかったお出かけを、弟とともに振り返っているのだろう。紺色のウインドブレーカーは、裏地が白黒のストライプ。長い袖がまくられており、明らかなオーバーサイズだ。来年の冬に袖を通すときは、ジャストサイズなのかもしれない。

陰鬱な薄暗さの照明。枯芝で汚れ果てた土色の床。白地にオレンジ色でカラーリングされた強化プラスチック製の座席は、傷と汚れにまみれている。兄の右隣に写るのは(紺色の袖のみではあるものの)、男性らしき大人の防寒着。座席の左端、ドア横の壁には木目調のパネルがはめ込まれ、壁際に座る弟の姿をぼんやり反射させている。列車は走り、冬は厳しさを増す。未来を生きる兄弟の笑顔だけが、眩しく輝いている。

(1000文字)



この投稿は「バトンズの学校」内での課題原稿(1000文字で写真をデッサンする)のサンプルとして、ぼくが書いたものです。当初は学内での共有とする予定でしたが、まあひとつくらい外に出してもいいだろう、と公開してみることにしました。学校、みなさんがんばっていますよ。