わたしが、知りたい
コミュニケーションの話からはじまった。
にんげんの話になった。
愛の話に着地して、ふたたびコミュニケーションに行きついた。
ほぼ日刊イトイ新聞できょうまで連載された、糸井重里さんと阿川佐和子さんの対談「名付けられていない場所」の話です。対談の名手、名聞き役といわれることの多いお二人が向かい合ったとき、なにを聞いて、なにをしゃべるのか。かなり過剰な期待をもって読んだのですが、いやあ予想をはるかに上回る対談でした。「こう聞くのか」「こうしゃべるのか」「こうまとめるのか」の連続で、こりゃあ感動が新鮮なうちに書き残しておかなきゃ。と、いまパソコンに向かっているところです。
全9回にわたる対談、かっちりしたテーマが決まっていなかったのはほんとうみたいで、序盤(1〜3回)では「聞くということ」を軸に話が進められます。ここでなるほどなあと感心するのは、お二人がエピソードを披瀝しあうなかで、場のルールを設定されているんですね。「ここまではいいよね」「そういうこともあるよね」「こういうボールも、投げるよ?」「ぼくはどの球もだいじょうぶ」という感じで。
落語のまくらみたいなものなんでしょうけど、いちばんわかりやすいところでいえば、1回目の冒頭近くで、阿川さんがいきなり性欲と白髪の話をされる。のみならず、ご自身について「神様はまんべんなく、白髪を作りたもうたな」と笑う。さらには「全身の毛という毛を、平等に白くさせていく!」と重ねる。
これって、ただのおもしろ話を越えた「年齢の話もオッケーよ」「カマトトぶってもおもしろくないものね」のサインでもあるんですよね。こうして放たれた阿川さんのジャブによって、場のルールも決まっていったし、糸井さんも自由になれたんじゃないかと思うんです。
そして白髪の話が会話の糸口をさぐるジャブだとしたら、見事に打ち抜かれた右ストレートが、第3回のこの質問。
「その話を聞いて思ったんですけど、男の友達同士ってお互いに全然キャラが違ったり、気の長さ、短さというのが違ったりしていても、『こいつは生涯、許す』というか、なんかそういう関係じゃありませんか?」
これ、聞いてる内容もすごいのですが、それ以上に大切なのが、質問の主語が「わたし」になっていることなんですよね。
読者や視聴者はどうだかわかんないけど、わたしが知りたい。
原稿や番組のためではなく、聞き役だからではなく、
わたし阿川佐和子が知りたい。
こういう質問がどれだけできるかによって、場の空気は大きく変わるし、インタビュー原稿のおもしろさも変わってくる。けれども主語を「わたし」にした質問は、相手に対する「好き(好奇心)」がないと、なかなか出てこない。ぼくはそんなふうに思っています。
結局、今回もこの質問をきっかけに、「男と女」の話になり、それが「愛」の話にまで発展していきました。
……と書いていたら、「聞く」についてのテクニカルな感想だけでかなりの文量になることに気づきました。続きの「話す」と「まとめる=書く」については、明日書きます。いやあ、これ全ライター&全編集者必読の連載ですよ。これだけで何杯でもごはんが食べられる。