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不得手と成長、その実際。

スケートボードがこわい。

うちの犬の話である。いや、スケートボードがこわいというのはこちら人間サイドの感覚で、ガガガガガッと轟音を立てながら板に乗り、ぐんぐん直進してくる男がこわい、がわんわんサイドの実感なのだろう。文字にしてみると、たしかにこわい。代々木公園や駒沢公園を散歩していると、けっこうな頻度でスケボー兄ちゃんに遭遇する。一周まわるうちに二人や三人に遭遇する。びびった犬は、おとなしく逃げ隠れればいいものを、飛びかかるようにして吼えたてる。結果、走行禁止区域でスケボーに乗っているアウトローに対し、こちらがすみません。あやまるはめになる。


あれは小学何年生のころだろうか。


なににあこがれたのか、両親にスケボーがほしい、と懇願したことがある。当然「いらん」とか「あぶない」とか却下されるのだけど、いつしか根負けした両親が、従兄弟が使わなくなった「ローラースケート」をもらい受けてきた。これじゃない、などという正論はいっさい通じない。やむなくぼくはそれを履き、へっぴり腰であわあわするのを三日ほどやってみたのち、こんなもの二度とやるものか、と投げ捨てた。ベランダに放置されたローラースケートを見て両親は、そらみたことか、三日坊主で終わるやろが、的なせりふとともにぼくを笑う。これじゃない、スケボーがほしかったのだ、などという正論はいっさい通じなかったし、言い出せもしなかった。


のちに光GENJIの人たちがローラースケートを履いてくるくるデビューしたとき、真っ先に思い出したのが、自分のあわあわするへっぴり腰姿だった。この人たちも、あそこから始めたんだよなあ。そう思うと、彼らのことを素直に尊敬できた。

ぼくは思う。

不得手のほとんどは「あわあわ」であり、成長とはつまり慣れなのだと。

うちの犬も、ここから少しずつスケートボードに慣れてくれるのだろうか。犬は来月、三歳の誕生日を迎える。