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忘年会じゃなくってさ。

先月、つまり11月の中旬、地下鉄の車内でおそろしい話を聞いた。

スーツ姿の男性ふたり組。話しぶりからすると同じ会社の、上司と部下なのだろう。上司はぼくと同じか、ぼくより少し若いくらいの40代。そして部下は見るからに溌剌な20代。上司らしき人は、部下らしき人に、翌週の予定を訊いていた。すると部下、スマホを見ながら「あー。水曜はぼく、忘年会が入っちゃってるんですよねー」と答えたのだ。

数日前にも書いたように、忘年会なるものに参加する機会の乏しいぼくは、おおいに驚いた。「11月だぜ? ついこのあいだまで、まだ10月だったんだぜ? 秋だぜ?」。もちろんそんなことを言ったら「つい3か月前まで、夏だったんだぜ?」なんて言い草も成立するはずで、さすがにそれはおかしいと自分でも思う。けれども忘年会といえば、やはり12月の、できれば中旬以降に開催されるものであってほしいというか、そういうものなんだろうと思ってきただけに部下(らしき若者)の発言は少しショックだった。


で、どうしてそんな話を持ち出したかというと、忘年会というネーミングについて考えるからである。

年を忘れる会、と書いて「忘年会」。もちろんここで忘れるべき「年」とは年齢のことではない。おじさんもおばさんも年齢を忘れて、童心に帰って、鬼ごっこや隠れんぼをしましょう、という会ではまったくない。忘れるべきは「この一年」なのである。つまり「この一年、いやなことも、つらいことも、いろいろありましたよね。でも、ほら、今日はぜんぶ忘れて、パーッとたのしみましょう」が忘年会であり、この会は「とってもつらかった一年」を前提に、催されるのである。

そりゃあ、さあ。数えていけばつらかったこともたくさんあるだろうけど、たのしかったことやうれしかったことだって、同じくらいたくさんあったはずだよ。だから忘年会なんて言わずに、祝年会とか、喜年会とか、笑年会とか、なんかそういう会があってもいいんじゃない?

と思っていたら、ほぼ日刊イトイ新聞「今日のダーリン」で、糸井さんがこんなふうに書かれていました。


とにかく、師走のこの時期、
なにかと反省したりしてそうな年の瀬に、
「よくやったことを数える」ようにしようと思うんです。
みんなにも、もちろん、じぶんにもね。

 ほぼ日刊イトイ新聞「今日のダーリン」 2019年12月5日ぶんより


「ですよねー」と思い、こんな話を書いてみたのでした。