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想像力とはなにか、について考える。

想像力とはなにか。

それは「遠くにあるものを近くに感じるための能力」である。たとえば健康な若者にとっての老いや病は、自分からうんと遠いところにある話だ。ましてや死など、遠いどころの話ではない。自分にも自分の大切な誰かにも、そんなことは永遠に訪れないかのように生きている。一方、老人にとっての老いや病は、いかにも身近な話題だ。老いは確実にやってきているし、なんらかの疾病を抱えていることも多いだろう。恩師、家族、友人、仕事仲間。さまざまな人の最期に立ち合ってきてもいるだろう。

それゆえ老人にとっての老いは、想像力を必要とする話題ではない。ただの現実であり、鏡を見るだけで、椅子から立ち上がるだけで、その内実を理解することができる。

対して若者が老いを理解するには、想像力が必要となる。遠くにあるものを近くに引き寄せて考える力が必要となる。

一般に想像力は「膨らませるもの」のように考えられているが、そうじゃない。想像力とは「引き寄せる力」なのだ。遠くにあるものを、自分の手の届くところへ。

自分と違った境遇に生まれた人の気持ちを、自分に引き寄せて考える。遠い国で起きている悲劇を、自分に引き寄せて考える。ソーシャルメディアの向こう側にいるあの人の孤独を、自分に引き寄せて考える。夏の公園を走りまわる子どもの無邪気を、自分に引き寄せて考える。


これらの想像力を育んでいくためには、動機と訓練が必要だ。対象を「わかりたい」と思う動機と、遠くにあるはずのものを自分に引き寄せて考える継続的な訓練。

文字だけの本を、とくに良質な物語を読み続けることは、そのわかりやすい手段なのだと思う。遠くのものを近くに引き寄せて考えることなしに、物語は読めないのだから。