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憶えてもらうことのむずかしさ。

もっとがんばろう、と思う瞬間がある。

たとえば2〜3回顔を合わせたことがある程度の方、とくに業界の大先輩といえるような方と対面したとき、ほとんどの場合先方はこちらの名前を思い出せない。けれども相手の方に「えーっと、たしか以前に一度お会いしましたよね。あの……」なんて恐縮のことばを述べさせるのも申し訳ないので、そういうときには出会い頭に「ご無沙汰してます。古賀です」と自ら名乗るようにしている。すると相手の方は内心(助かった)と思いながらも余裕をもって「ああ、ご無沙汰してます」なんて答えてくださる。

で、思うのだ。「もっとがんばろう」と。この人に顔と名前を憶えてもらえるくらい、立身出世を果たしてやろうと。


いまだから言える話として、7年前に会社をつくったとき、けっこうたくさんの方々から社名を間違えられた。うちの会社は、株式会社バトンズだ。とくに単数形のバトンではなく、複数形のバトンズであることについては、自分なりの思い入れ(読者につなぐバトンと、次代のライターにつなぐバトン)を込めたつもりだった。しかしながら、たくさんの方々が「古賀さんの会社、『バトン』だっけ? がんばってよ」的な感じで声をかけてくださり、「ありがとうございます」と礼を言いながらぼくは「もっとがんばろう」と心に誓った。あらゆる関係者が正しく「バトンズ」と呼んでくれるその日まで、がんばっていこうと心に誓った。

思えば最近、周囲から「バトン」と呼ばれることがなくなった。ちゃんと「バトンズ」と呼んでもらえている。うーん。会社の名前、少しは浸透してきたのかしら。

と言いたいところだけど、ぼくは真相を知っている。

あまりに多い読み間違いに困ったぼくは、いろんな場所で「batons」と書かず、「バトンズ」とカタカナ表記するようにしたのだ。最初はカッコつけてアルファベット表記にしていたのに、それを取り下げたのだ。読み間違いが減るのも当然である。


正直いまでは自分の名前が有名になることよりも、会社の名前や存在が有名になったり、信頼の証になることのほうが「夢」だ。自分の将来を考えることはさほどたのしい作業ではないけれど、バトンズの将来を考えることは、意外とたのしい。

自分のことだけ考える生き方に、飽き飽きしてしまったのだろう。