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分母を増やす

「もともとひとつの本は、内容で読むひとを限ってしまうところがある。これはどんなにいいまわしを易しくしてもつきまとってくる。また一方で、著者の理解がふかければふかいほど、わかりやすい表現でどんな高度な内容も語れるはずである。これには限度があるとはおもえない。」

これは拙著『20歳の自分に受けさせたい文章講義』にも引用させていただいた、吉本隆明さんのことばです。ひとりのライターとして、特に後半部分の「著者の理解がふかければふかいほど、わかりやすい表現でどんな高度な内容も語れるはずである」については、座右の銘のように肝に銘じてきたつもりでした。

しかし一方、「売ること」を本気で考えるのなら、前半部分にこそ注目するべきじゃないかと思うようになってきました。すなわち本とは、その内容によって読者を限定してしまうところがある。どんなに精魂込めて「いい本」をつくったとしても、100人のうち20人しか読まない本は存在するし、それを100人にまで引き上げるのはほとんど不可能に近い行為だ。その現実を忘れて本づくりをしてしまうと、届くはずだった20人にさえ、届かない本になってしまう。

じゃあ、どうするか。

答えは簡単で、分母を増やすことです。つまり、100人のうち20人しか読まない「いい本」をつくって、人口500人の村に配る。そうすれば、内容を損なわないまま100人が読んでくれる。少なくとも、その計算は成り立つ。

上記のような理由もあって、『嫌われる勇気』は執筆中の段階から「世界に届けること」を意識してつくられた本でした。今回、韓国で爆発的な反響を呼んでいる姿を目の当たりにし、あのときのぼくらの判断が間違っていなかったことを実感した気がします。

韓国珍道中、そのうちどこかに掲載されると思いますが、まあすごい熱気ですよ。とりあえず、本日はこのへんで。