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濁点の思い出。

小学生のころ、濁点で怒られたことがある。

運動会が終わった翌週くらいに、学級通信めいたものをつくることになった。簡単なレイアウトがなされた、B4くらいのおおきな用紙が配られる。生徒の一人ひとりが、それぞれ「運動会を終えて」のひと言コメントを書いていく。最後に担任の先生が総括の一文を書き添え、用紙を人数分コピーし、学級通信とする。それは教室の後ろに貼り出され、保護者にも配布される。

自由なひと言コメントとはいえ、そこは小学生だ。みんな「お弁当がおいしかったです」とか「綱引きがおもしろかった」とか「練習がたいへんだった」とか、つまらないことを書いている。なにかの用事で出かけた職員室で、コピーされる前の用紙を見かけたぼくは、そこに濁点を加えた。


「なんやこれぇ〜〜〜〜!!!」


数日後、壁に貼り出された学級新聞のまわりに人だかりができていた。声の主はAくんである。「練習がたいへんだった」と書いていたはずのAくんのコメントは、濁点によってこう変わっていた。


「練習がだいべんだった」


大爆笑に包まれ、しかるのちに「じつはおれが書き足したんだよ。てへぺろ」と名乗りを上げ、「まったくもぉ〜」「勘弁しろよぉ〜」なんてな展開を予想していたぼくの期待は、いきなりくじかれた。顔を真っ赤にしたAくんは、版画用の彫刻刀を握りしめると「誰だ!」と犯人探しをはじめたのだ。

そうなってしまっては仕方がない。凶器を手に激昂した相手に謝っては逆効果だと思ったぼくは、理不尽な喧嘩モードで「文句あるかぁ!」と逆ギレし、彼の手首をつかんでぐにゃぐにゃした揉み合いに突入した。けっきょく、緊急のホームルームが開催され、疑似裁判めいた場で反省の弁を述べるような大騒動に発展したのをおぼえている。


いや、「ためになる話とだめになる話は紙一重だなあ」と思ったときに蘇ってきた、だめだめエピソードでした。

自分の馬鹿さ加減も含め、なにもかもが小学生だったと思います。Aくんとはその後もずっと友だちで、よく一緒に遊んでたんですけどね。