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あのときのあの人に学ぶ「これから」。

「あした人間ドックだから、きょうは飲めないんだよ」

子どものころ、周囲の大人たちからしばしばそんなことばを聞いた。映画やドラマのなかでも、サラリーマン漫画のなかでも、もちろん日常の実生活においても、大人たち(主に男たち)は残念そうに、そうこぼしていた。ということはつまり、日々の晩酌が習慣になっていたのだろう。

いま、ぼくのまわりではお酒を飲まない人が増えている。「飲めない」のではなく、もともとは飲んでいたのだけれども「飲まない」を選ぶ人たちだ。聞いてみると彼らは、健康を気遣っているわけではない。医者から禁酒をすすめられたわけではない。ただ、「パフォーマンスが落ちる」のだそうだ。毎日お酒を飲んでいると。とくに深酒してした翌日なんかは顕著に。言われてみれば「飲まない」を選ぶ人の多くはぼくよりも若く、仕事もむんむんに充実し、子育てでも大忙し、みたいな感じである。


以前、80年代の矢沢永吉さんがNHK教育の『YOU』に出演し、若者たちと語り合う映像を見たことがある(誰かがYouTubeにアップロードしていたものだ)。そのなかで矢沢さんは、「むかしはツアーなんていったら、ステージやって、あけて、しこたま飲んで、また次のステージやって、飲んで、シャバダバよろしくやってたんだけど、いまは違うからね。もう、ツアーの何か月も前から走り込んで、カラダしっかりつくってツアーに臨んでるから」みたいなことをおっしゃっていた。「ミック・ジャガーなんかも、そうみたいよ?」と。会場の若者たちが大いに驚いていたのを憶えている。


いや、ぼくは禁酒も断酒もしていないんだけどさ。「これから」のことを考えるときって、「40代になったとき、ミック・ジャガーはなにをしてた?」とか、「あのとき永ちゃんはどこに向かった?」とか、「2000年代に入って、マドンナはなにを選んだ?」みたいに、「あのときのあの人」を考えるのって、いい判断材料なのかもしれないですね。

じつは明日、朝から人間ドックに行くのですが、いまの時代はもう「あした人間ドックだから、きょうは飲めないんだよ」のことばは、脚本からカットされるのかもなあ、と思って書きました。