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飯テロという考え方の変遷。

いつのころからか語られる言葉に「飯テロ」なるものがある。

そろそろ世間が寝静まろうかという深夜帯、カロリー満ち充ちの食品画像を不特定多数な人びとの行き交うソーシャルメディア空間に投下する行為を、そう呼ぶ。それはカツ丼であったり、ラーメンであったり、ピザトーストであったり、ポテトチップスやアイスクリームであったりする。

言ってしまえば、ただの「うまそうな食べもの」の写真だ。それを投稿したとて、さすがに「テロ」の二文字は大袈裟なものに思える。けれども人びとがそれを「テロ」行為として戦慄するのは、「夜中にそんなものを食べちゃダメ」だからであり、なぜダメなのかといえば端的に「太るから」なのであろう。

つまり現代人の多くは、太ることをタブー視しており、その禁を破らせようとする誘惑画像に「飯テロ」の名を与えているわけだ。

なので時代や文化が異なれば、飯テロの画像はすべて、ただの「うまそうな食べもの」になる。テロや教唆の要素がなにもない、ふつうの写真になる。

……と思ったのだけれど、それは違う。


大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観ていたら、当時の日本は深刻な飢饉に襲われていた、との説明があった。最新話では、飢饉を踏まえた上でのやりとりも描かれていた。

飢饉のさなかにある人に「うまそうな食べもの」を見せたら、しかも「いまから俺はこれを食うぞ(お前にはひと口もやらんけど)」と言ったら、それは重大なテロルだ。そうだそうだ、思えば自分も若き日の赤貧時代、空腹が悔しくなるからテレビのグルメ番組はぜったいに見ないようにしていたわ。

以前取材した料理評論家の方によると、日本で「グルメ」という言葉が生まれ(それまでは「食いしん坊」を意味する「グルマン」が一般的だった)、グルメ番組が高視聴率を叩き出すようになったのは、1980年代のテレビ東京がはじまりなのだという。

グルメ番組が生まれた1980年代、「うまそうな食べもの」を映すことがテロ行為ではなくなり、やがてダイエット信仰によって別の意味でのテロ行為となっていったのだろう。


……という話を書いたのも、この時間にピザハットを食べたからである。