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むずかしいことはわからないけど、この人は本物だ。

「お客さん、○○○○さんって知ってますか?」

数年前、空港まで向かうタクシーのなかで、突然運転手さんから話を振られた。「ああ、あのコーヒーの……」。戸惑いつつもぼくは答えた。○○○○さんとは元銀行マンで、とあるコーヒーチェーンを起業し、のちに国会議員となった人だった。

「ああー、さすがだなあ」

運転手さんは唸った。「いやね、わたし、最近まで○○○○さんのこと全然知らなかったんですけどね、たまたまこの人の書いた本を読んだんですよ、ほら、これ」。運転手さんは、助手席に投げ出された文庫本を手に取ってこちらに見せる。「わたしはね、政治とか経済とか、そういうむずかしいことはわからないんだけど、この人は本物だと思うなあ」。

ああ、たしかに立派な方ですよね。あのコーヒー屋さん、ぼくも好きです。適当な言葉を返しながらぼくはむしろ、運転手さんがどこで○○○○さんのことを知り、本を読んだのかが気になった。

「いや、息子がおもしろかったって言ってたんでね、それでわたしも読んでみたんです。そしたらあなた、これがホントにすごい人で」

空港に到着すると運転手さんは、○○○○さんの文庫本を「これ、飛行機のなかで読んでみて」と渡そうとする。見ると助手席には、何冊もの文庫本が置かれている。なんとなく「いやいや、たしか家に一冊あるはずなので」とかお茶を濁し、ぼくは車を降りていった。


まあ、さきほどAmazonを見ていたら○○○○さんのビジネス書がおすすめされていて思い出した話なんだけど、あれはちょっと感動する出来事だったなあ。何年も前に出されたビジネス書を、いま読んで、「むずかしいことはわからないけど、この人は本物だ」と感激した人がいて、それを多くの人に薦めている。本って、こうやって広がっていくんだなあ、ネットの評判ばかりを見ていたらぜったい視野が狭くなるなあ、と。


それにしても「むずかしいことはわからないけど、この人は本物だ」って、最高のほめ言葉ですよね。そう思ってもらえるような本を、ぼくもつくっていかなきゃ。