逆輸入の、これまた逆輸入。
こんなこともあるんだなあ、と思う。
英ケント大学のアナ・カタリーナ・シャフナー教授による著書、『自己啓発の教科書』(原題:The Art of Self-Improvement)を読んだ。文化史が専門だという著者が、自己啓発というジャンルの系統樹を解き明かし、それぞれの言説がどのように受容されていったかを論じたとてもまじめな一冊だ。一例を挙げると「たとえば政治においてポピュリズムが急激に高まっているのは、それが複雑で差し迫った問題にごく単純な答えを用意しているのが好まれるからだが、それと同じように自己啓発も単純化していく傾向がある」とし、自己啓発の危険性や問題点にもしっかり切り込んでいる。
で、この本の4章を読んでいたら、こんな話に行き当たった。
おお、きましたアドラー。うんうん、そうだそうだ。
んん? 日本? もしかして……。
ひゃー! まさかマジで『嫌われる勇気』かよ!
日本に加え、中国と韓国でミリオンセラーになっていることは知っていた。そして英語圏やドイツ語、フランス語、またポルトガル語圏などで評判を呼んでいることも伝聞レベルでは知っていた。でも、こんなかたちで自分の本と名前に出会うことがあるとはなー。
しかもシャフナー教授、何ページにもわたってアドラー心理学と『嫌われる勇気』への論考を展開していて、たとえばこのあたりは非常に鋭い指摘だ。
ちなみに日本人の本でほかに紹介されていたのは、こんまりこと近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』と、1959年に渡米して禅の教えを全米に広げた僧侶・鈴木俊隆さんの『禅へのいざない』。
こんまりさんや鈴木俊隆さんのことを考えると、ある本がたくさん読まれたり読み継がれたりするのって、まさしく「influence」なんだなーと思う。
もしも『嫌われる勇気』がそういう本になっているとしたら、とてもうれしい。