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在宅勤務のむずかしさ。

そもそもむかしは、こんなだったのだ。

独身のフリーランス時代、ぼくはずっと自宅で仕事をしていた。広くもないリビングルームに置かれたちいさな机が、ぼくの仕事場だった。結婚してからは自宅近くに6畳くらいのワンルームマンションを借り、そこを仕事場としていた。ひとりの仕事場はたのしかった。好きな音楽を大音量で流し、自分のタイミングで遠慮のない放屁をし、夏の暑い季節には全裸になって開放感たっぷりに机に向かい、何冊・何十冊という本を書いてきた。


いま、ぼくの会社では在宅勤務を原則としている。リモートワーク、ということばを使えないのは、リモートでなにかをやりとりすることもないまま、ただ個々人が自分の原稿を書く、それがわが社の仕事だからである。出社しようと在宅であろうと、やることは同じなのだ。

ただ、自宅に書斎を持っていないこと、そして自宅にいるとどうしても犬のかわいがりという別業務が発生してしまうことを主な理由としてぼくは、今週も出社している。友人に「在宅勤務は無理っすよねー」と嘆いたところ、「クルマ通勤にすればいいんですよ」と即答され、なるほどそれもそうだと得心。あほのように高い——それでもタクシーよりは割安な——駐車場代に目をつぶってクルマ通勤している。伝染さないし、伝染らない。なるほどクルマは便利なものだ。だれもいないオフィスでひとり、黙々と原稿を書き、もぐもぐ弁当を食べている。普段よりはかどっている、とさえ言える。


でもなあ。

リモート会議みたいな機会が少ない仕事だから余計に感じるのだろうけど、やっぱりひとりはつまんないと思ってしまう。打ち合わせは苦手だし、たくさん雑談するわけじゃないけれど、同じ場所に誰かがいるって、ほんとに大事だなとあらためて実感している。

だったら自宅で犬や家族と一緒に仕事をすればいいじゃないかと自分でも思うのだけど、そうじゃないのだ。自宅も、犬も、家族も、ぼくにとっては仕事とは切り離された場所であって、それはそれで大事に確保しておきたいのだ。ここに仕事は、まぜたくないのだ。


バトンズという会社をつくって6年目。

ぼくはもう「仲間がいる空間で、自分の原稿を書く」が当たり前の、それが常体のからだになったのだなあ、とこの機会にあらためて気がついた。家も会社も、大事にしていきたいよね。