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ほんのちょっとの劣等感。

いつの間にやらセプテンバー。めちゃくちゃ忙しい月曜日。

満を持して、書くことがないぞ。どうやってお茶を濁そうか、早く仕事に戻ろうかと出前のハンバーガーを頬ばりながら考えていたところ、すばらしいお題が振られた。

一度だけお目にかかったことのある天才(いくぶん奇才)映像クリエイター・藤井亮さんのツイートだ。もしもツイッターに「同意」ボタンがあったなら、そしてそれが連打できるボタンであったなら。きっとぼくはハイパーオリンピック並みの懸命さでそれを何百連打していただろう。

20代のころ、ぼくは「おれのデブライン」を60キロに設定していた。

おれの身長や骨格で60キロを超えたら、それはデブの扉だ。60キロを超えたら、真剣に運動しよう。ジムに通って、本格的な肉体改造に着手しよう。そう心に誓っていた。馬齢の積み重ねとはおもしろいもので、ちょうど30歳を迎えるころ、ぼくはデッドラインの60キロを超えた。さあこのタイミングを逃したらおれは、一方通行のデブ道を突き進んでしまう。さっそくジムに入会した。ジムのフルタイム会員になれる程度には、お金や時間のゆとりもあったのだろう。

もともと筋肉のつきやすい体質である。鍛えれば鍛えるだけ、結果はついてきた。トレーニング中は、肩まわりの筋肉を(鏡越しに)目視できるよう、タンクトップを着るようになった。そしてぺたんこなシックスパックの誇らしさから、普段着もピタTばかりを着るようになった。おれを見ろ、すごいだろう、の気持ちがむくむくと湧き上がっていった。

けれどもピタTを着込んだ30男をあこがれの目で見てくれる人など、どこにもいない。こんなにがんばって、こんなに美しくなったおれの身体に、誰も注目してくれない。

頭にきたぼくは、絡むようになった。

場所で言えば飲み屋で。人で言えば見知らぬ隣の席の客に。絡むと言ってもケンカを売るわけじゃない。泥酔した挙げ句、「おい、お前ら順番におれの腹を殴ってみろ。ガッチガチで1ミリも痛くねえぞ」と、余興のアントニオ猪木みたいな絡み方をし、実際何人何十人という男たちに腹を殴らせていた。ときにそれは、行列ができるほどのイベントになった。


なんてバカな男だ。いまではそう思う。しかも残念なことに、その「バカ」はクリエイティビティにつながるようなバカではなく、ほんとうにどうしようもない、飲み屋から一歩外に出るとひとかけらの価値もなくなるような、酔狂のバカだった。

えーと、なんの話だっけ。

いまぼくの体重は60キロを超えていますが、もうガチムチのマッチョになろうとは思いませんし、フルマラソンに挑戦しようとも思いません。

「ほんのちょっとの劣等感」が、ぼくの仕事の源泉だと思うので。