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ぼくはノマドができない。

「会社をつくるとき、なにを考えていましたか?」

もしも誰かにそう訊かれたとしたら、まあ、ほんとに考えていたのはその日の昼ごはんだったり、抱えている本の締切だったりするはずなんだけど、とりあえずは「椅子とトイレ」と答えるのではないかと思う。

トイレ問題については前にも書いた気がする。うちの規模のちいさな会社がかまえるオフィスは、マンション向けの物件を改築したものが多く、それだと男女兼用のトイレがひとつ、オフィス内に備え付けられていたりする。男女が同じトイレを使うのはいやだし、たとえば若い女性社員の仕事に「おっさん(つまりはぼく)が使ったトイレを掃除する」が組み込まれるのはもっといやだ。そんなわけでトイレについては、共用部分に男女別トイレがある物件を最優先で探した。

続いて椅子。

松井秀喜さんがメジャー行きを決断した理由のひとつに、人工芝問題があったと聞いたおぼえがある。人工芝でプレーしていると、どうしても膝を痛め、選手生命が短くなる。そのため松井さんは、契約更改のたび、球団幹部に対して東京ドームを天然芝化するよう、何度も要請していた。しかし、その願いはかなわず、妥協案のように東京ドームは天然芝に感触が近いフィールドターフという人工芝に貼り替えられた。それでも天然芝でのプレーを求める松井秀喜さんは、メジャーの扉を叩いた。……という話だ。

これをライターという仕事に置き換えるなら、人工芝は格安オフィスチェアであり、天然芝はアーロンチェアである。人それぞれなんだとは思うけど、安い椅子に座って長時間作業していると、間違いなく腰を痛める。無事これ名馬、の格言どおり、いい仕事には心身の健康が欠かせず、そこに投資しない経営者は阿呆である。そもそもライターなんてパソコンひとつあれば完結する、きわめて設備投資の少ない仕事なのだ。椅子に金を使わずしてどうする。松井なんて、それを理由に渡米したのだぞ。

そんな思いからアーロンチェアを人数分購入しようとしたのだけど、会社設立を前にしたぼくは、「これからいくら儲かるのかわからない」の不安、そして「これからどんだけ金がかかるのかわからない」の恐怖に襲われていた。

結果、ぼくは高級とも低級ともいえないエルゴヒューマンのオフィスチェアを人数分購入し、なんだかフィールドターフに貼り替えた巨人軍みたいな中途半端さになっている。


さて。きのう、とりあえず1脚、コクヨのまったくあたらしいオフィスチェア「ing」という商品を注文した。これの使い心地がよければ、全面的にこの椅子を導入する予定だ。


それにしてもノマド的な働き方をされている方々、スタバなんかの椅子で腰は大丈夫なのだろうか。ぼくはホテルで缶詰作業するときもオフィスチェアのあるホテルじゃないとダメだし、それを用意してくれるホテルにしか泊まらないのだけど。ぼくみたいな猫背野郎じゃない方々であれば、どんな椅子でもちゃんとお仕事できるのかなあ。

鬼にカネボウ。
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ライター。バトンズ代表。著書・共著「嫌われる勇気」「古賀史健がまとめた糸井重里のこと。」「20歳の自分に受けさせたい文章講義」など。週日更新しています。http://www.batons.jp