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覆された最強伝説。

都市伝説のひとつに、「最強伝説」と呼ばれるジャンルがある。

簡単に言えば「ガチで喧嘩したら、この人が最強らしい」との噂話だ。かつての芸能界でいうと、大木凡人さん、渡瀬恒彦さん、石倉三郎さん、生島ヒロシさん、そしてジェリー藤尾さんなどが、その候補として挙がっていた。ここに安岡力也さんや宇梶剛士さんらの名前が入ることもあるものの、そういう「そりゃ強いでしょうよ」の人たちは都市伝説としての魅力に欠けてしまう。「ええっ!? あの凡ちゃんが?」の驚きが、都市伝説を都市伝説たらしめるのだ(ちなみに言うと、プロレス界では長く「ケンドー・ナガサキ最強説」が語られていた)。

そして動物界では、トラでもライオンでもゾウでもなく、「カバ最強説」がしばしば語られる。しかもそこには「アフリカで人間をもっとも多く殺害している野生動物はカバなのだ」と、もっともらしい情報も付記されている。

もちろんぼくは、これを「最強伝説」のひとつとしてたのしんできた。実際にカバの被害に遭う人間も多いのだろうけど、それはそれとして相手はカバだ。ムーミンみたいな、歯科医院のマスコットキャラクターとして親しまれる、あのカバだ。「動物界最強」とのギャップは激しく、そのギャップの激しさゆえおもしろおかしく誇張されているのだろう。それくらいに考えていた。

けれども先日、たまたま旭山動物園の公式ツイッターで、自室で食事を摂るカバの映像を見た(ガッシャーンと開く鉄扉の音も、カバが登場するまでの静寂も、やたらドキドキさせられる)。

なんという顔のサイズ!

なんという顎のでかさ!


生きものとしての造形やバランスが見れば見るほどおかしくって、トラやライオンと対面したときよりもぼくは、こいつを前にしたほうが錯乱する気がした。

カバが最強であるかどうかはわからないし、興味がない。けれども、カバがいちばん「こわい」のは、どうやら確かだ。そして対面しての勝負事においては「こわい」と思わせたほうが勝ちなのである。