死んでもいい、なんて言わないで。
ローリング・ストーンズのコンサートには、キース・リチャーズがヴォーカルをとる「キース・タイム」みたいな時間が2〜3曲分設けられている。
比較的キースの歌に寛容な日本人とは違って、欧米のお客さんはこれを格好のトイレ休憩と認識しているようで、ミックが引っ込んでキースが歌いはじめると、露骨にぞろぞろトイレに向かう。そしてキースはそれを気にする様子もなく、気ままに「ハッピー」やら「コネクション」やらを歌うわけである。
ぼくがいつも気になっているのは、こうしてキースがへらへら歌っているあいだのステージ裏だ。いったいミック・ジャガーはどんな顔で休憩をとり、周囲のスタッフとどんな会話を交わし、ステージ後半に備えているのか。
一点を見つめながらひたすら酸素ボンベを吸引している姿。ソファにどっさりと倒れ込み、顔にタオルを掛けている姿。ゲータレードを飲みながらスタッフたちに音響や照明の指示を送る姿。次の衣装に着替え、スタッフたちと演出の流れを再確認する姿。
どれもありそうだし、どれも似合っている。
けれどもいちばんカッコイイのは、キースのコーナーが終わりに差しかかり、おおきく深呼吸をしてから「よしっ」とばかりに立ち上がる、その「次」へと向かう一瞬だ。
鮎川誠さんは、2000年代のストーンズの迫力を評して「もう全部のステージで、ここで死んでもいい、と思っとるんやないか」と語っていた。
これ、よく言う「ステージの上で死ねたら本望」みたいな話とは少し違う。
おそらく近年のミック・ジャガーを突き動かしているのは、かなり命がけの、「このステージを生き切ってやる!」なのだ。
明後日の3月25日、彼らはキューバで大規模なフリーコンサートを開催するのだそうです。いま、きょうこの瞬間、ミック・ジャガーは記念すべきキューバ公演に向けてなにを考えているのか?
想像するとおもしろいよなあ。