見出し画像

Eight Days A Week.

うちの近くに、絵に描いたような大衆中華料理店がある。

壁に掲げられたメニューは、ラーメン各種、チャーハン、それからレバニラやニラ玉などの定食もの。カウンターにはアルミ灰皿が置かれ、おじさんたちは随意に煙草をたのしみ、味付けは「塩、醤油、化学調味料、以上!」みたいな、どう考えたって不健康なお店である。

とかなんとか言いつつ、ベタベタな大衆中華が大好きなぼくはよくこのお店を利用するのだけど、ひとつだけ困ったことがある。

お店を切り盛りする親子の仲が悪いのだ。息子さんが調理担当、お母さんがそのサポート(ごはんをよそったり、炒める野菜を準備したり)という役割なのだけど、短気な息子さんがしょっちゅうお母さんに悪態をつくのである。この険悪な雰囲気が、どうにもまずい。

飲食店における居心地は、その何割かが「厨房やスタッフの仲のよさ」によって決まるとぼくは思っている。いや、これはみんなが思っている。だからこそ居酒屋チェーン店ではスタッフのあらゆる言葉と所作をマニュアル化し、元気のよさや明るさを高いレベルで維持し、お客さんの居心地のよさを向上させようとしているのだろう。


でもなあ。こっちがうれしくなるような「仲のよさ」って、そういうことじゃないんだよ。そう、見ているだけでうれしくなる「仲のよさ」って、たとえばあのひとたちだよ。

ビートルズの記録映画『エイト・デイズ・ア・ウィーク』。このなかでリンゴだったか誰だったかが、こんなことを言っていた。たしか、ジョンのキリスト発言をめぐる騒動についての台詞だ。


「エルヴィスは大変だったと思うよ。あのプレッシャーを、ひとりで受け止めなきゃいけなかったんだから。ぼくらは4人で受け止めて、いつもお互いに助け合うことができたからね」


ゲラゲラ笑い合うことではなく、いちゃいちゃすることでもベタベタくっつくことでもなく、「困ったときに助け合う」。それが自然なこと、当然のこととしてできている状態のことを「仲がいい」と言うのだし、そういう誰かを見ていると、こっちまでうれしくなっちゃうのだと、ぼくは思う。そしてビートルズとストーンズの最大の違いは、ここなのかもと。


そういえば、ぼくはほぼ日主催のイベントに参加するたびに乗組員のみなさんの「仲のよさ」にうっとりするのだけど、その意味でほぼ日はビートルズ的な会社なんだなあと、本日最終回を迎えた『もしもビートルズがいなかったら』を読んで思いました。

あー、いい連載だった!