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一丁前になる、ということ。

きのう無事に、もろもろが片づいた。

バトンズの学校、その受講者全員ぶんの入学手続きが完了したのだ。募集にあたっては定員30名とアナウンスしていたのだけど、どうやっても絞り込むことができず、結果32名の方々に合格の通知を送らせていただいた。もちろん、この32名の全員が「5年後、10年後のトップライター」になる保証などどこにもない。けれども、この「場」からなにかおおきなものが動き出すことについては、ほとんど確信を持っている。

糸井重里さんが聞き手をつとめた『悪人正機』のなかで、吉本隆明さんはこんなことをおっしゃっている。


いつも言うことなんですが、結局、靴屋さんでも作家でも同じで、10年やれば誰でも一丁前になるんです。だから、10年やればいいんですよ、それだけでいい。他に特別やらなきゃならないことなんか、何もないからね。10年間やれば、とにかく一丁前だって、もうこれは保証してもいい。100%モノになるって、言い切ります。

ファンのあいだでは有名な「10年やれば一丁前」理論だ。もの書きの一丁前について吉本さんは、こう続ける。


毎日、なんかちょっと、机の前に座るとか。もし、この方面を目指そうっていうなら、机の前に座るっていうことだけは毎日やったほうがいいですよ。やって10年たてば、必ず一丁前になります。

思わず「ほんとかよ? みんながみんな、一丁前になれるのかよ?」との声が漏れそうだが、吉本さんは「これについちゃ、素質もヘチマもないです」と断言する。ただし、次の厳しいことばが続く。


素質とか才能とか天才とかっていうことが問題になってくるのは、一丁前になって以降なんですね。けど、一丁前になる前だったら、素質も才能も関係ない。「やるかやらないか」です。そして、どんなに素質があっても、やらなきゃダメだってことですね。

そして世にあふれる凡庸なる小説家(もの書き)たちについて、吉本さんはある種の敬意を込めて、こう結ぶ。


読者として見てさ、つまらないとか、つまらないものしか書かないじゃないかって思う小説家もずいぶんいるけどさ。しかし、そういう人たちも必ず、10年だけはやっていますよ。作家っていうのは、職業上の秘密というのは明かしたくないから、「いい加減にやってたんだけど」っていうふうに言うけど、そんなことは嘘で、必ず10年はやってると思ったほうがいいですね。


ほんとは学校でこの話をしようかと思ったんだけど、まあ有名な話でもあるし、本を読めばもっとおもしろく理解できることでもあるので、ここで紹介させていただきました。

学校では全員を「一丁前」にまで持っていきたいし、できればその先のなにかにも触れることができればと思っています。