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損と得の関係。

○○したことないやつは人生損している。

とても嫌な、大きなお世話だとしかいいようのないフレーズである。「酒を飲めないやつは人生損している」とか「あそこの鮨を食ったことないやつは人生損している」とか、その手合いの話だ。きみよ、どうして「おれは酒が飲めて得をしてるなあ」で話を済ませられないのか。どうして人様の人生にずかずかと踏み込んで「お前は損をしている」なんて宣言をする必要があるのか。してねえぞ、損。

しかしながら今年、さすがに思わざるを得ない。

花粉症に無縁な人は、人生得をしている。いま、この季節、ふつうに往来を歩くことができるというだけでもう、得をしている。

自分の体質が変化したのか、今年が特にひどいのか。この数週間、花粉にやられまくっている。どうにも耐えきれず内服薬2種、点眼薬、点鼻薬を乱用した結果、今度は口のなかがカラカラに乾き、頭がずっとぼんやりしてる。水を口に含んでも、渇いた舌はうまく吸収してくれない。やりすぎだ。薬の飲みすぎだ。口が砂漠だ。まぶたはぼってりサボテンだ。

さて、じゃあ花粉症と無縁な人に向かって「あなたは人生、ものすごく得してるんだよ」と訴えたところで、相手は「はあ」くらいにしか思ってくれないだろう。「そうなんですかねえ、わたしにはよくわかりませんわ」くらいの反応しかないだろう。「あなたは得をしている」のメッセージは、なかなか伝わりづらい。それどころか「こうすれば得をする」のメッセージさえ、「こうする」ことの面倒くささが邪魔をして、うまく伝わらないことが多い。

一方で「損」のメッセージが持つ訴求力は異様なほど高く、あやしい儲け話を持ってくる人は「こうしたら儲けまっせ」よりも「あなた損してまっせ」に力点を置いて、よくわからん儲け話を売りつけようとする。なので「損」を突きつけられたら、迷わず逃げたほうがいい。

……という話を以前、心理学者の方に教えてもらった。「いわゆる情報商材って、たいてい『あなたは損をしている!』で押してきますから」と。

それゆえ人は「おれは酒が飲めて人生得してるなあ」ではなく「酒が飲めないやつは人生損している」と言いたがるのだろう。あれは他人に言っているのではなく、自分の得を喜んでいることばなのである。

にしても、他人を巻き込んでくれるな、だ。