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地方出身者が知らないこと

「どっかおすすめの店、教えてよ」

ぼくは福岡の出身です。福岡といえば、全国でも屈指のめしがうまい土地。そのため知り合いなんかが福岡に出張することになったとき、けっこうな確率で訊かれるのが、上記の質問なんですね。うーん、困った。もうここで、東京在住のあらゆる地方出身者の声を代弁して、言っておきます。

「知らんわ」

別に、非協力的な態度を表明しているのではありません。ほんとうに知らないのです。なぜって、ぼくらがその土地に住んでいたのは、うどんやラーメンを小銭で払い、居酒屋チェーンの安酒で泥酔し、道場破りのように食べ放題の店を探し歩いていた、満腹だけを求めて生きていた、学生時代までなんですよ。ここは一発、経費で飲み食いしてやろう、とほくそ笑む出張ビジネスマンが喜ぶようないかしたお店なんて、知るはずがないんです。

じゃあ、若い時代に上京してきた地方出身者に「ふるさとの味」がないかといえば、そんなことはありません。ぼくにだって当然あります。すなわち、地元の駄菓子、菓子パン、インスタントラーメンです。

九州限定の固有名詞を挙げるなら、マンハッタン、ブラックモンブラン、ミルクック、チロリアン、サンポー焼き豚ラーメン、うまかっちゃん、梅が枝餅、蜂楽饅頭、いきなり団子、牛乳サンド、ヤキリンゴ(※パンの商品名)、などなど。

もしもいま、目の前にこれらの駄食を出されたら、喜んで食べるでしょう。やっぱりうめえや、とかぶりつくでしょう。けれどもこれらを観光客におすすめすることはできません。たぶん、そういうものをソウルフードと呼ぶのです。

でもねー、ときどき思うんです。

なんにも知らない観光客として福岡に行ったら、さぞかし楽しいだろうな。移住したくなっちゃうかもな。最高だもんなー、あそこ。そしてぼくは、そういうもののぜんぶに蓋をして、いまここにいるんだな。とかなんとか。