デスクワーカーの制服
はじめてストレッチ機能付きのジーンズを穿いたのは、いつのことだっただろう。最初に買った一本は、いまはなきマリテ・フランソワ・ジルボーのストレッチだった。こんなに穿きやすいジーンズがあるのか!!!と、こころのなかで感嘆符3個つけたのを覚えている。
以来、年に数本ずつのジーンズを買ってるけど、8割方はストレッチ機能が付いたもので、いまやデザインよりもストレッチであること、つまり「機能」を重視してジーンズを買っていることになる。
しかしそもそも、ジーンズにおける「機能」とは、あのリーバイスのツーホースマークが示すように「丈夫で長持ち」だったはず。残念ながらストレッチのジーンズは、そちらの機能にやや欠ける。耐久性には目をつぶるから、とにかく穿きやすくあってくれ。ぼくのこころはそう思っているのだろう。
そうやってストレッチばかりを穿いていると、普通のジーンズを穿いていたかつての自分が信じられなくなる。あんな硬いジーンズ、血が止まるだろう、と思ってしまう。実際、ひさしぶりに普通のジーンズを穿くと、ひどく窮屈だし血が止まる感覚がある。
そしてふと、思い至る。血が止まっているのは脚を曲げた姿勢で、じっとしているからだ。つまり、長時間椅子に座り続けているからだ。ジーンズが想定していた顧客は、トウモロコシ畑で働く農夫であり、牧場で牛を追うカウボーイじゃないか。ちょっと油断すると椅子の上であぐらをかくデスクワーカーなど想定外だったのだ。
そういうわけでいま、椅子の上であぐらをかきながら、長時間身動きしないデスクワーカーに最適な衣装はなんだろう、と考えている。
着物姿の川端康成が、頭に浮かんでいる。