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細分化をやめてみる。

ある種それは洗礼のようなものだった。

高校2年の夏。県大会で敗退した3年生の先輩が、部活を引退した。いちばん仲のよかった先輩は大学受験も考えておらず、そこから半年が思いっきりヒマになった。当然のように彼は、アルバイトをはじめた。自宅からほど近いファミリーレストランの、厨房に入った。

二学期がはじまり、先輩はぼくら後輩たちのたむろする部室に遊びに来た。ファミリーレストランでのアルバイト生活を、おもしろおかしく語る。そして突然まじめな顔をして、こう告白した。

「でも、もうマジで外食とかしたくなくなるぜ。裏側見てしまうと」

彼によるとファミリーレストランの厨房はひどく不潔で、手を洗わずに調理するバイト生も多いし、食材の使い回しもある。そしてなにより「G」の名で知られる害虫がウヨウヨしていると言うのだ。「でも社員の人とか、素手で掴むけんね。Gを!」。

そこから1年と少しが経過し、ぼくも先輩と同じ立場になった。つまり、部活を引退してから卒業するまでのあいだ、ヒマをもてあますことになったのだ。やることもないしお金もほしいし、ってことで博多駅近くのホテルに入ったレストランでアルバイトをはじめた。そこはやはり不潔で、洗剤がついたままの皿に料理を盛ったり、当然のように「G」が発生したりしていた。外食にちいさく幻滅し、ほどなくしてなにも気にならなくなった。ある時代において「厨房で働くこと」は、イニシエーション的な行為だったのかもしれない。


「世界中のレストランでいちばんキッチンが清潔なのは、マクドナルドだ」

10年以上前に取材した超有名レストランチェーンの創業者さんは、そう言っていた。あれだけたくさんの店舗を世界中に抱え、あれだけの歴史がありながら、マクドナルドでは一度も食中毒が発生していない。その一点を持ってしても、マクドナルドの企業努力はすごい。子どもに安全なものを食べさせたいのなら、当然マクドナルドは選択肢に入るべきだ。本題から外れた話なので記事には入れなかったものの、それが彼の主張だった。

着眼点のおもしろさはもちろんのこと、彼がマクドナルドを「レストラン」と呼んでいることがおもしろかった。だよなあ。へんに細分化せず、マクドナルドも牛丼屋もラーメン屋も、もう一度「レストラン」に入れて考えると違った風景が見えてくるよなあ。そんなことを思った。細分化させることをかしこいことのように考える風潮は、ちょっと違うのかもなあと。

小説もノンフィクションも実用書も児童書も、ぜんぶ貴賤なき「本」なんだよね。