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聴けばわかる、ほんとうに。

先月の上旬から律儀に、ジム通いを続けている。

いまのところ体重にも体脂肪率にも、さしたる変化はない。しかしながら週3回のジム通いを続けていけば、どこかでティッピング・ポイントを迎えるのだろう。身体や健康状態が、劇的に変化していくのだろう。そう期待を寄せながら、始業前にせっせとジム通いを続けている。

ジムにいるのはおよそ2時間。着替えやシャワーを除いた正味90分を、運動にあてている。トレーナーの方が組んでくれたプログラムに従って、運動部時代のことばを使うならサーキット・トレーニングのような時間を過ごしている。

当初はこの時間、好きな音楽を聴きながら運動をしていた。若いころと比べて最近は、アルバム1枚をフルで聴き通す時間をあまり持てていない。いい機会だと思ってあたらしいアルバムや、懐かしいアルバムを聴くようにしていた。

それが先週あたりから、オーディオブックを聴くようになった。90分も過ごすのだから、読めていなかった本を読もう。耳で読もう。もしかしたら続きを聴きたくて、もっとたくさん運動するようになるかもしれない。そう考えて、オーディオブックを聴くようになった。


さて。いまの日本で積極的なオーディオブック読者は、どれくらいいるのだろうか。ラジオ番組的なポッドキャストではない、本の朗読たるオーディオブックを習慣的に聴く人はどれくらいいるのだろうか。

正直言うとぼくは熱心なオーディオブック読者ではなかった。自分の著書がオーディオブック化されるときには確認のため——ちょうどゲラをチェックするように——事前に聴いていたものの、誰かの本を購入して聴くことは稀で、聴くのも長距離移動の車中に限定されていた。

そういう自分を棚に上げていまさらのように断言すると、作家やライターはみんな聴いたほうがいいと思う。編集者も聴いたほうがいいし、ブロガー的な人も聴いたほうがいい。

というのも。耳だけで聴くと、文章の巧拙がまるわかりなのだ。これはとくにビジネス書に顕著なのだけれど、下手な文章はもう、まるっきり耳に入ってこない。語られる内容のおもしろさや大切さとは別に、リズムが悪く、なにを話しているのかさっぱりわからず、くどくどとしたくり返しも多く、ストレスがたまりまくる。きっと文字で読めばそこまでの違和感はないのだろうけれど、耳はめちゃくちゃ正直だ。聴いてられない。

一方で、うまい人の文章はするりと耳に入る。朗読を担当する俳優・声優さんも、いかにも気持ちよさそうだ。ああ、この人はやっぱりめちゃくちゃにうまいんだな、とあらためてわかる。今朝はちょうど村上春樹さんの『猫を棄てる』(朗読:中井貴一)を聴いていたのだけど、するする耳に入ってくる村上さんのことばと中井貴一さんの声が、このうえなく贅沢なものに感じられた。

すごい人のすごさを知るには、オーディオブックってめちゃくちゃおもしろいメディアだと思います。もう一目瞭然、いや一耳瞭然ですから。