見出し画像

最近お気に入りのメニュー。

いかにも我のつよい食べものがある。

どのような料理に用いられようと、端役・脇役の座に甘んじることを頑として拒み、主役へと躍り出てしまう食べものだ。たとえば、アンチョビはそうである。風味づけくらいのつもりで少量をピザやパスタに投じたそれは、ときに厚かましいほどの自己主張をおこない、最終的にアンチョビが苦手な人にはぜったいに食せない料理を完成させる。似たところで言えば納豆もそうだ。納豆汁、納豆オムレツ、納豆カレー、納豆チャーハンに納豆パスタ。いずれの場合においても納豆は価格に見合わぬ自己主張を重ね、主役の座に鎮座する。

嫌いな人にとっては厄介でしょうがないこの特性。好きな人にとってはこんなに便利な話もなく、納豆好きのぼくはこれまでさまざまの納豆料理をつくってきた。

そして最近ハマっているのが、そばである。会社の近くにある立ち食いそばチェーン店の「ゆで太郎」で、メニューにはないオリジナルの納豆そばをつくるのだ。レシピを紹介しよう。

まずは食券機で、かけそば380円のボタンを押す。納豆そばというと冷やしのそばを思い浮かべる人も多いだろうが、温そばのほうがぜったいにおいしい。そしてトッピングとして購入するのが、温泉卵100円と納豆100円だ。卵については生卵80円も売られているものの、卵白のぬるぬるがあまり得意ではないぼくの場合、温泉卵にする。納豆も温泉卵も、かけそばに盛られた状態ではなく、別皿で提供される。しかもどちらも刻みネギ付きで。

カウンターでそれらを受けとったら、テーブルについて調理開始だ。温泉卵の入ったお椀に納豆と刻みネギを投じ、軽く醤油をかけまわしたうえでぐるぐるかき混ぜる。納豆の一粒一粒に卵がコーティングされるくらいまで、一心不乱にかき混ぜる。混ぜて、ふわふわねばねばの納豆溶き卵をつくる。そして熱々のそばのうえに、ねばー。

山かけそば的なずるずる感。納豆のふくよかな食感。さらには時間差で鼻を抜けるネギの甲高い香りと、卵黄の甘味。納豆の滋味が溶け込んだつゆは最後の一滴まで飲み干したくなるほどの味わいで、そうなれば腹持ちもよいわけだし、財布にもやさしい。いまいちばんお気に入りの昼飯である。

そして先日、この温玉納豆そばを食べながら気がついた。いま自分がそばのうえに載せている温玉納豆。もしかしたらこれって、「超半熟の納豆オムレツ」とも言えるんじゃなかろうか。だとすればほんとうに超半熟の納豆オムレツをつくり、それをかけそばに載せて食べたらもっとおいしいのではなかろうか。

オムレツの載ったそばなんて、想像することもむずかしい。しかしながらぼくは「コロッケそば」というメニューについても食べてみるまでゲテモノだと思っていたし、「にしんそば」の存在をはじめて知ったときにも大層驚いた。その理屈で考えれば、「納豆オムレツそば」が将来メジャー級の食べものになる可能性だってゼロとは言えまい。


ぼくは以前、CoCo壱番屋で納豆カレーを食べようとしたところ、隣の席に座っていた関西出身らしき女性客に「まじでありえへんわ」と聞こえる声で言われ、席を移動された経験がある。苦手な人にとっての納豆はそれほどのパワーを持った食材であり、おそらくは温玉納豆そばの話も、読むだけで総毛立つものような話なのだろう。周囲の迷惑も考えたうえで、こそこそと食べ続けていきたい。