こういう仕事もおもしろいんじゃないか。
急に、綾戸智恵さんのことを思い出した。
もう10年近く前に取材させていただいた綾戸さんは、CDデビューにいたるいきさつを、こんなふうに語っていた。
" さあ、今度はクラブでホステスさんのアルバイト。なるほど外国人のお客さんも多いし、今度も楽しい職場です。
でも、わたしは化粧っ気もないし、色っぽくもない。だからなんとかお客さんを喜ばせようと思って、ピアノを弾いたの。当時はカラオケがない時代だったから、生のピアノに合わせてお客さんが歌うのね。
もちろんお客さんは素人さんだから、リズムも音程もめちゃくちゃ。それでもわたしはお客さんがリズムを間違えたら、それに合わせてピアノもワンテンポ遅らせる。音程も合わせてあげる。お客さんが気持ちよく歌えるように、アドリブでね。
すると評判になって、ホステスはいいからピアノだけやってくれという話になる。チエちゃんのピアノだとうまく歌えると、みんなが喜んでくれる。
そして今度は、チエちゃんの歌も聴かせてくれというリクエストがくる。あの歌を歌ってくれ、この歌を歌ってくれとリクエストだらけになる。お客さんの要望に合わせて、どんな歌でもアドリブで歌っていく。
今度はそれを見た別のお客さんがわたしを気に入って……。と、まあそんな感じの寄り道、回り道をくり返しながら、わたしは40歳でデビューすることになったの。まるでわらしべ長者みたいにね。"
『16歳の教科書2』より
ほかのお話がおもしろすぎたこともあり、それほど強く記憶に刻まれていたわけではなかったはずの、このエピソード。急に思い出したのはやっぱり、「生活のたのしみ展」での突撃インタビュー企画がおもしろかったからだ。
最初のホナガユウコさんから、最後の糸井重里さんまで。ぼくは(かなりひさしぶりに)テープを回すこともなく、走り書き程度のメモと記憶とで、それぞれのインタビューをばんばんまとめていった。そのスピード感が、アドリブ性が、聞きながら書きながら、なんだかほんとうに気持ちよかった。
メモを見ながら記憶をたどり、写真を見ながらその人の声と表情を思い出し、陽差しや風や湿度を思い出す。そんなふうにしてまとめたインタビューはもしかすると、音源を正確に再現するインタビューよりも「その人」に近いんじゃないか。そんな気さえしてくるような、新鮮なうれしさがあった。
流しのミュージシャンがいるように、流しのインタビュアーがいてもいいのかもしれない。ぼくの(ビジネスじゃない)仕事のひとつに、それを入れていってもいいのかもしれない。
なんかね、まだまだちょっと余韻というか余熱というか、残り香というか。そういうものに包まれていて、ずっと「あそこで感じたこれから」のことを考えています。
きょうのバトンズは、たのしみ展の代休。つまりこれから、犬とあそびにいってきます。