P5160074_のコピー

借金のようなもの

締切ってなんとなく、借金と似ている。

その日が迫ると怒りに肩をふるわせた兄ちゃんが現れ、「おらぁ、さっさと耳を揃えて返さんかいっ。トイチゆうたじゃろうがボケェ!」とドアをガンガン蹴り飛ばす。ひぃぃ、とおびえながら、タンスの引き出しからコートのポケットまで引っかき回し、家じゅうのお金をかき集める。

足りない。ぜんぜんない。あるはずがない。書いてないんだもの。

なのに阿呆な口は、なんの算段もないまま「明日、明日まで、なんとか明日まで待ってください」と懇願しはじめる。どうすんだおれ、むりだろ明日、と思いつつも、その場の恐怖から逃れることで目一杯になる。

もちろんそんな修羅道に生きる編集さんはいないし、むしろスケジュール調整しつつ「がんばってください」と応援してくださることも多い。

でも、白のエナメル靴でドアをガンガン蹴り飛ばされてるような、常時どこかから監視されているような、おかげで睡眠や入浴はおろかトイレに行くことすらはばかられるような、心臓の薄皮がむけていくようなヒリヒリ感が拭えなくなるもまた事実だ。

いろんなところでいわれるように、ひとは締切がないと書けないし、書かない。書き上げることができた理由を問われれば、「締切があったからです」がいちばん正直な答えだろう(趣味で小説を書こうとするひとの大半が書き上げられないのは、そのせいだと思う)。

その意味で、平日はまいにち更新することを目標にしているこの note は、締切があるのかないのかわからない場所だし、ひょっとしたら「締切がないのに書く」を習慣づけていくツールになるのかもしれない。それはたぶん、ぼくにとってとても大事なことだと思う。

それにしても、締切が「借金の返済日」だとしたら、ぼくはなにを借りて、なにを返そうとしてるんだろう。

いかにもそれっぽい優等生な答えはすぐに浮かぶけれど、ほんとの答えはまだわからない。