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あれとオレの独禁法

一時期、「あれオレ詐欺」ということばが流行ったことがありました。完全に他人の手柄なのに、自分はなんにもやってないのに、「あれ、オレがやったんだよね」と自慢する人たちを指す、困ったちゃんなことばです。ヒットの仕掛け人、と自称したい人たちによくみられる光景ですよね。

ぼくら出版の世界でいうと、どうなるのでしょうか。

著者の方が「あれ、オレの本なんだよね」と自慢する。いや、これは詐欺でもなんでもないですよね。完全にオレそのものの仕事です。じゃあ、ライターが「あれ、オレが書いたんだよ」と言う。ブックデザイナーが「あれ、オレがデザインしたんだよね」のお仕事リストに加える。編集者が「あれ、オレが編集したんだよね」と語り、営業マンが「あれ、オレが売ったんだよ」と酒をあおる。書店員さんが「あれ、オレが仕掛けたんだよね」と微笑む。

そうなんです。どれも詐欺なんかじゃない。みんなでつくって、みんなが知恵を出して、足を使って、汗をかいて、みんなで売ってる。ひとつの商品には、びっくりするほどたくさんの「あれオレ」の該当者がいるんです。

もちろん、あっちのオレとこっちのオレとでは、費やした時間や流した汗の量は違うのかもしれない。突出してがんばったオレ、はいるのでしょう。それでも、自分の関わった仕事について、自慢気に「あれオレ」を語れる人が大勢いるというのは、喜ばしいことじゃないのかな。その成果をひとりで独占しようとするのは、あんまりかっこいいことじゃない。

できれば秘密にしておきたい「あれオレ」も、当然ありますしね。