見出し画像

自費出版と自主制作。

自費出版、という言葉がある。

映画や音楽の世界では「自主制作」の言葉があてられるものの、出版業界ではなぜか「自費」とお金の部分がクローズアップされている。おのれの意志で、おのれ自身の資金を投じて制作する出版物、といった意味の言葉だ。

その意味でいうと、これは「自費出版」に該当するのだろうか。

KDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)では、マンガを含むすべてのジャンルの電子書籍と紙書籍を、初期費用なしで出版できます。また、KDPの紙書籍出版では注文に応じて印刷を行うため、著者の皆様が在庫を抱える必要がありません。さらに、著者の皆様は販売価格をご自身で設定でき、紙書籍で60%、電子書籍で最大70%のロイヤリティを受け取ることができます。

注文に応じて印刷するオンデマンド出版のため、在庫を抱える必要がない。印刷も流通も、アマゾンが代行してくれる。著者印税はなんと60%で、印刷費はそこから差し引かれる。……なるほどたしかに、原稿さえ揃っていれば初期費用ゼロで出版できそうだ。それはもはや「自費出版」ではなく、映画や音楽と同じ「自主制作」になりそうだ。

初期費用ゼロなんだったら、一冊つくってみようかしら。たとえば1500本を超えるこの note から、200〜300本をセレクトした本だったらいますぐできそうだ。60%というロイヤリティも魅力的だし、なによりおもしろそうだ。KDPの、詳細ページを覗いてみた。

本自体はペーパーバックで、表紙も本文もPDF入稿するらしい。そして肝心の印刷費まわりを読んで、うーん。ぼくは腕組みしてしまった。

仮に1500円の、240ページある本を出版するとしよう。一冊あたりの印税は900円である。

【一冊あたりのロイヤリティ】※1500円の本の場合
1500円×60%=900円

これに対して印刷費は、モノクロの場合以下の計算式で算出されるという。

【一冊あたりの印刷費】※モノクロ印刷の場合
固定コスト175円+(ページ数×2円)

つまり、240ページの本だったらこうなるわけだ。

【一冊あたりの印刷費】※モノクロ印刷、240ページの場合
175円+(240ページ×2円)=655円

けっきょく、印刷費を差し引いた一冊あたりの売上げは、こうなる。

【一冊あたりの売上げ】※定価1500円、モノクロ240ページの場合
ロイヤリティ900円−印刷費655円=245円


もちろん1500円の本に対して、245円の純利益は、大きいといえば大きい。一般的な著者印税は定価の10%であり、1500円の本なら150円だ。

けれども、とぼくは電卓を弾いた。

どうせ本をつくるのなら、カッコイイ表紙にしたい。ブックデザイナーさんにちゃんとした「仕事として」、いいものをお願いしたい。そして組版をつくるのにも、すぐれたフォントディレクターさん、 DTP オペレーターさんにお願いしたい。さらには校閲さんのチェックも入れたい。

それらの避けて通れない初期費用の合計は、普通に数十万円を超えてくる。ちなみに上記のKDP本(一冊あたりの純利益が245円)の場合、販売部数が2000部に達してようやく490,000円の売上げである。仮にデザインその他の初期費用が50万円だったとした場合、実売の2000部に達するまではやはり「自費出版」にとどまるわけだ。


うーん。「おあそび」としてKDPを試すのはいいけれど、少なくともぼくの場合これを「ビジネス」として考えるのはもう少し先のことなんだろうな。

だったらなにか、たのしい「おあそび」を企画したいものです。