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静かなパーティーに行きたい

税務署で開かれるパーティーほど喧噪に満ちたものはない。

何言ってるんだろうと思われるかもしれないけど、僕が今までに経験したパーティーの中でも断トツで上位に来る。

基本的に僕は騒音レベルの喧噪の中で、何か誰かと話したいとは思わないので、できるだけそういう場所には近寄らないようにしている。それでも、ときには仕方なく巻き込まれる。

そのとき思うのは「カクテルパーティー効果」だ。カオスのように騒がしい空間でも、知り合いの誰かが自分の噂話をしてたり、興味のある話題をしてると、そこにピタッと指向性が向いて自然に話が聞き取れてしまうっていうやつ。

あるよなぁ、とは思う。ただカクテルパーティーって何なんだ? とも思うけど。「今度カクテルパーティーあるんだけど」みたいな話は聞いたことがない。

まあでも僕に縁がないだけで巷ではそこら中でやってるんだろう。けど、カクテルパーティーに呼ばれなくても、そういう現象はある。

この前も、取材と打ち合わせの合間の時間にちょっとした作業をしないといけなくて、個人的には穴場だと思ってるブックカフェ的な店でココアのようなものを飲みながらおとなしく仕事をしていたら、不意に耳が動いた。

(あ、一応そういう作業もOKなタイプの店です)

斜め前のほうの席に座った二人連れの会話がすっと聞こえてきたのだ。

二人は面識はあるけど初対面(顔合わせ)っぽい感じの編集者とマンガ家さん。なんでわかるのかと言われても、聞こえて来る会話がどう考えてもそうだから。

もちろん僕も聞くつもりなんてない。けど、こっちもライターなので、どうしても編集者とのやりとりって脳が勝手に拾おうとしてしまう。

しかも、作品名とか登場人物名とか、まあまあ固有名詞が飛び交ってる。

具体的には再現しないけど(当たり前)、え、次の○○編はそんな展開にしちゃうの? みたいな話。あと、SNS展開のわりと生々しい話も。

僕がそんなに興味のない分野のマンガだからいいんだけど、好きなマンガに近い話だったら仕事どころじゃなくなってしまうかもしれない。

オープンに話してるってことは当然、べつに周りに聞かれてもいいレベルの内容で話してるんだろうなとは思う。

もし、そうじゃないレベルのも含まれてるとしたら聞かれてない前提なんだろうか。いやでも、誰にもそのままどこかで話されないって保証もないよなぁと。ファンの人とか、もろに同業者だったら。

そのあたりの考え方はよくわからない。むしろ拡散してほしくてリアルボイスで発してるのかもしれないし。

ただ、こっちも困る。盗み聞きしたいわけじゃない。他のテーブルに移るのもなんか変だし、このご時世、テーブル移動はしづらい。中途半端な作業状態で店を出るわけにもいかない。あいにくヘッドフォンもイヤフォンも持ってなかった。

仕方ないので、脳内で補正することにした。もっと騒がしい場所で作業してるていにする。そっちを脳内に流してリアルの音を消すのだ。

思い浮かんだのが確定申告初日の税務署。なんでそこ? と自分でも思うけどそれしか思い浮かばなかった。

いまはe-Tax的なものでやるので、確定申告でわざわざカオス状態の税務署に足を運ぶこともないのだけど昔は行ってた。

あのわちゃわちゃと殺気立った空気はたいていの物音を凌駕してくれる。

それはいいのだけど、空気感的にはちっともクリエイティブではない。数字の作業ならできそうだけど、原稿を書いたりするのに「税務署の殺気」BGMはまったく合わない。

結局、そのときは作業をあきらめたのだけど、ちっとも内緒になってない内緒話をBGMに、みんなそれでもふつうに作業ってできるものなんだろうか。まあ、できる人はできるんだろうな。