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小さなふたり

なんだか、また少し小さくなった気がするね。そうだね。

僕らは毎朝、お互いの身体を見比べてそんな会話を交わす。それは、僕らにとっては朝の一部のようなものだ。おはよう、と同じ。朝のあいさつ。

他人から見たら、少し妙な光景に見えるのかもしれない。まあでも、僕らを見つけるのは至難の業なのだから、そんなことを気にすることもない。

もう、何週間か前に、僕らはお互いの身長を測り合うのをやめてしまった。

どんな定規も役に立たなくなってしまったからだ。僕が5センチで彼女が3センチ。それが最後に測ったお互いの身長だ。

彼女の身長はもちろん僕が測り、僕のは彼女が定規を必死で押さえてよろけながら測った。何の変哲もない定規が支えを失った船のマストのようだった。

測り終えた後、僕らは息を切らしながら、もうこれ以上は無理だという結論に達したのだ。

僕らは、時折、いまの自分たちのことを話し合う。

お互いが、どんどん小さくなっていくのは仕方ないと思っている。小さくなったから、食べ物の心配もない。小さなチーズ一切れだって、僕らには25メートルプール1個分くらいある。

チーズにふたりでもたれながら、僕らは話の続きをする。

ここ最近の一番の話題は、ふたりで郵便配達夫の帽子に乗っかって町を一周したことだ。彼のフェルトの帽子は、まるでラウンジソファのようで、すごく快適だった。

その日は、とても穏やかな日だったけど、僕らは飛ばされないようにずっと手を握り合っていたのだ。

帽子の上で彼女は言う。こうやって外の景色を眺められるのも最後かもしれないねと。

どうして? と僕はたずねる。だって、もし外であなたを見失ったら見つけ出す自信ないもの。

大丈夫だよ、と僕は言う。

それは普通の大きさの人間を基準にしてるからだよ。小さいものには、小さいものを認識することができるんだ。ちゃんとね。

そんなわけで、僕らはもうすっかり眼に見えない存在だけど、今日もふたりで生きている。