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バスを捨てる

来ないバスを待っていた。予定の時刻を15分過ぎてもやって来る気配がなかったので、僕は諦めてバス停から歩き始めた。

日曜日の郊外から駅に向かう最終バスなんて、ほとんど乗る人もいないのだからさっさと通過してしまったのかもしれない。

それでも、一瞬、バスが遅れてやってきたような気配がして何度か振り返ってみたけれど、そこにあるのは沈んだように眠っている真っ黒な直線と波間から見え隠れするブイのようにぼんやり立っているバス停の標識だけだった。

もう振り返っても何も見えないくらいのところまで来たとき、闇を震わせながら何かが僕の後ろに迫ってくるのを感じた。

ああ、やっぱりバスが遅れて来たのかもしれないなと思ったけれど、もうどっちでもよかった。

バスは、僕がここを歩いているのを知っていたみたいに僕の横に滑るようにやってきて停まった。

圧縮空気の音が聞こえ、ドアが開く。思ったとおり、乗客の姿はない。仕方なく僕はバスに乗る。

ちらっと運転席を見ると、運転していたのはバスの運転手ではなく年老いた大型のハムスターだった。

一瞬、何かを間違えたような気がしたけれど、ハムスターは大きな背中をハンドルを抱え込むように震わせてバスを発車させようとしていた。

最後部の座席に、朽ちようとしている廃屋みたいな格好で本物の運転手が座っていた。

「もう疲れたんですよ」

彼は相変わらず崩れたまま顔を上げずに言う。バスの運転手だって疲れることだってあるのだろう。

「だから、これから捨てに行くんです」

捨てるって、何を? 

このバスをですよ。運転手は言う。

それきり運転手は何もしゃべらなかったので、僕は同じように後部座席に座って流れ去っていく郊外の町の灯りを見ていた。

灯りの下で人々が明日を待ち続けていた。

このままずっと彼らは明日を待ち続け、疲れた運転手と僕を乗せたバスは走り続ければよかったのだ。