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『ストーリー・オブ・マイライフ 私の若草物語』

 「フランシス・ハ」や「レディ・バード」の制作に関わったマンブルコア運動出身のグレタ・ガーウィグが脚本した2019年版(日本公開は2020年)版「若草物語」です。

ここで改めてマンブルコアをおさらいしておく

 2000年台のアメリカの若者(主に中産階級の白人)の等身大の日常生活や人間関係を重要視してリアリティを追求した自然派な低予算の自主制作映画運動といった感じです。

「若草物語」とは

 1868年に初出版された19世紀後半が舞台で、グレタ・ガーウィグと同じくアメリカ出身の女性作家ルイーザ・メイ・オルコットによる自伝的小説で、アメリカの忠臣蔵かと思うくらい未だにリメイクされる作品です。
 (最近の若い人は知らないと思われるが、日本では元禄期の赤穂事件をモチーフにした忠臣蔵が江戸期から何度も上演されテレビドラマになった過去があり、幕府の不公平に対する敵討ちが平民の高い支持を得たのだと個人的には想像しています。)

 「若草物語」がこんなにアメリカで愛され何度もリメイクされているのは、時代がちょうど産業革命に差し掛かかり鉄道が発展したことで、それまで女性がスカートを膨らましていた嵩張って動きにくいクリノリンといった服装が衰退し、より動きやすく機能的になったことに伴って女性が積極的に社会と関わるようになった変化の真っ只中の時代で、女だてらに作家を目指す主人公のジョーの生き様が近代的な女性の生き様の一つとして興味を持たれたことが大きいと私個人的には思っています。グレタ・ガーウィグもこの作品に共感するところがあって映画化したんだと思いますしハリウッドの映画界での男女格差がある中で非常に重要な意味を持つ映画でもあるのかもしれません。(ジョーはニューヨークにで生活してたなどグレタと共通点もあります)。 


 まだスカートをバルーンの様に膨らませて極力肌の露出を避けて、主に家庭内で人生の大半を過ごした名残の濃い時代では、貧しいとはいえ女性が賃金を得る仕事も少なかったでしょうし。
(全然関係ないけど、生物ではなぜ人間のメスが化粧したり着飾ったりするのかという話題を目にしたことがあるけど、これは女性を美しく飾り立てることが見栄や裕福さの証となっておりトロフィーみたいなもので女性が男性の所有物のような存在でもあったことが理由の一つなんじゃないかとも考えています。)
 与えられるのを待つ受け身の人生の他に、欲しいものや職業を自分で選んで自分で欲しいものを買えたらいいなみたいな女性のささやかな願いが女性解放運動(フェミニズム)につながっていったんだろうなぁなんて想像します。
(若草物語ではメグがドレスを作るのに家計から50ドルを使い込む話があって、まだ女性が自分の欲しいものを自分で働いて買うという選択肢はほぼなかったんだと思います。)

 映画の後半でジョーは腰を締め付けてウエストを強調する旧来のスタイルではなく、ゆったりとした衣服を身につけていたり、ジョーの衣装が時代の変化を表している印象を受けました。

フェミニズムはどこへ向かい、フェミニスト達の幸せとは何なのかってふと思った。

 昔のように生活のほとんどが手作業で畑仕事も畜産も繕い物も料理も人手(家族)が必要で恋愛抜きで結婚して子供を産むのは幸せ云々じゃなくてオスとメスの生存戦略なんじゃないかってちょっと思ってて(1人じゃ生きていけないけど2人なら何とかなるから結婚するという相互扶助は生存戦略として現代でもありだと思う)、原作のジョーの結婚は作者ルイーザの意思と反して出版社の要請だった様ですが、ロマンスが得難い体験だからこそ人は憧れたり興味を持つんじゃないかと私は思っていて(日本でも恋愛結婚はごく最近の婚姻関係で両思いは逆に成婚の難易度が高いんじゃないかと私は思っていてそれ以前は家と家の結び付きでお見合い結婚だったり、男性からの一方通行なアプローチによる妻問婚だったと思います。)、自分の夢と幸せを探究した結果として作家にはなれましたが恋愛や結婚と縁がありませんでしたの方が私はリアルに感じます。
 理由はわかりませんが、作者のルイーザは生涯独身だったそうです。
 
 皆が原作のジョーの様に才能に恵まれて裕福なローリーの求婚を拒み自立出来て相手が貧しくて高齢でも自分の好きな人と愛を交わして結婚するのは実は凄く難易度が高い人生なんじゃないかと思うんですね。


 これまでの18世紀からこの時代に女性が主体性を持つことがまだ難しいと思うんですよ。
 映画で四女エイミーは「結婚は女の経済問題」と述べていますが周囲に決められたわけでもなく金持ちと結婚することこそ我が人生だと選択決定し、長女メグは貧乏で小さい家でも自分の好きな人と結ばれる結婚を選択します。
 
 私はフェミニストというほどフェミニズムを学んだ志が高い女性ではないけれど、女性は結婚したって良いし生涯独身を選択したって良いと思っていて専業主婦でも共働きでも良く、重要なのは女性が自分で主体的に選択し決定する事ができることこそ尊い権利(それも1つの幸福)だと考えています。
 18世紀からちょうどこの「若草物語」の時代の19世紀にかけて女性の参政権を獲得する運動が広まった背景があるわけですから、親や夫や世間に左右されず意思表示することをこれからも手放してはいけないし続けていかなければならない(法を犯した犯罪を除いて)と思うわけで。
 フェミニズムを語る前にまず選挙に行くこと、これが実はすごく大事なことですね。

 写真など出典:IMDB

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