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エウジェーニオ・モンターレ 「うなぎ」

集英社版 世界の文学 第37巻 「現代詩集」

 うなぎ、北の海の
 人魚、バルト海を離れ
 われらの海へやってくる、
 われらの河口へ、河から川へ
 深みを溯り、流れに逆らい、
 支流から支流を、そして
 細流から細流を、痩せ細りながら、
 さらに奥へ、さらに濁った
 心の奥へと、泥濘の糸から
 系をたどる、ある日、
 アペニン山脈がロマーニャ平野へ落ちこむ
 岩かげ、死の淵に、
 葉の木洩れ陽がついに捕えた
 彼女の閃き。
 うなぎ、それは
 ピレネー山脈の涸れた流れ
 谷川がひたすら沃土を夢見る
 荒地の〈愛〉の矢、
 口火、鞭だ。
 旱魃と荒廃が苛む土地に
 ただ命を求める、
 緑の魂だ、
 すべてが地下の細胞
 すべてが炭化する、その瞬間に始まる
 と告げる火花だ。
 束の間の虹、あなたの瞳の内なる
 双生児、そしてあなたの泥にまみれ、
 人の子らのさなかに、あなたが輝かせる
 双生児、あなたはそれを
 妹と思えぬのですか?

(p192 河島英昭訳)


エウジェーニオ・モンターレはジェノヴァの貿易商の末子。
バルト海からのうなぎがイタリアを痩せ細りながら山を登り死にゆく…ところ、何かの転換が起こる。二回目の「うなぎ」からはピレネー(スペイン)の地下を流れ、やがてヨーロッパ全土を巡り沸かせていく…

ドイツ、イタリア、スペインと全体主義が勃興した土地を巡る「うなぎ」。「火花」、「泥」という言葉も何かを連想させる。

という読みは一つの読み。反ファシスト運動に参加したという記事を読んだからこういう連想になってしまったけれど、全く違う契機かもしれない。でも単純な「生命を言祝ぐ」詩でもないと思うのだが。最後の問いは真摯に過ぎる…
他の読みも考えよう。
(2022 03/09)

考えた?
この詩の原語朗読聴きたいな。
とりあえず、連想するのは、吉田健一の「酒宴」のラスト。
(2022 03/10)

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