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「ポストコロニアリズム」 本橋哲也

岩波新書  岩波書店

カニバリズム(カニバル 食人)

カリブ海の島にたどり着いたコロンブスは、初めての先住民との接触で、相手が食人種ではないかと怯えながら、相手にも自分がそう思われているのではないかと考える・・・だが、しかししばらく経ってくるとコロンブスに友好的な種族と反抗的な種族が判明してきて、後者を現地の言葉で「カリブ」とか「カニバル」とか言ってたみたい。
その後、植民地経営の都合でこの「カニバル」という言葉が、それが指している食人種のことは念頭から消え、友好的な種族とのやりとりとか、西欧の植民地争奪のプロパガンダとして使われるようになった。 
1920年代のブラジルでは、南米も西欧も飲み込んで一つにしようという芸術運動「食人宣言」が出される。この代表作の絵画が本に紹介されているけど、なかなかよいなあ。 

ちなみに、「方法序説」にも食人種という言葉が出てくる。当時の流行語だったのかも?
(2011 10/06)

第3章 フランツ・ファノン

マルティニク諸島の生まれで、フランスに留学、精神分析学を収め、アルジェリアの病院に就任する・・・ここから、彼とアルジェリア(解放運動)との繋がりが産まれる。

第1作(以下の第◯作というのは、この本で紹介されている作品だけを数えたもの)「黒い皮膚・白い仮面」では差別が社会関係によって成立すること、白人に似せることによって差別から脱するのではなく、自分自身を(ということは相手も)一人の人間として捉えること(そこで精神分析が役にたったという・・・)が述べられている。

第2作「革命の社会学」では、解放運動の闘士でもあったファノンの証言が聞ける。(イスラム信仰の)ヴェールを焼いて(西洋人の振りをして)爆弾をしかける、または解放運動のラジオを流す(フランス語で流した、ということにファノン自身も著者も強い意味を持たせているようだが、自分は消極的な意味しか感じないのだけれど)、そのヴェールやラジオは解放運動のメディア(ここでは「媒介者」という意味)となる。

第3作「地に呪われたる者」は、最後の作品でこれまでのことを理論?としてまとめてみよう、というもの。ここでいきなり「マニ教的二元論」と出てくるのは、つい最近マニ教の本買った自分には面白かった(まだなんらかの「異端的雰囲気」は醸し出しているらしい)けど、どっちかというと「そんなこと昔は考えてましたっけ?」という理想論に近い感じ、を自分は受けた。ま、自分の産まれてない時代のことだから、仕方のないことだが。

というより、この手の本(「ポストコロニアリズム」という本自体を指す)の語り口調がなんだか気になって仕方がない。典型的なのは「◯◯するということ、それを・・・」みたいな。内容は重要なことだと思うのだが、それだけで読む気が萎えてしまう(こともある)・・・両者とも「以前の語り口で語ること自体が支配者側の、あるいは従来の科学者(ツリーで考える)側の思考そのものなのだ」というところあるから、難しい。それとも日本だけの慣行か?

次はサイードだけれど、サイードは文学研究者という面もあるからファノン的二元論?のようなことはなくて安心?なのかな、でもないかな。
例えば19世紀の若きフランス人文学青年(ま、要するにフロベール)がエジプト行って一人の人間が何を感じたのか、そこにオリエンタリズムという視点をどう活かすのか、批判とか評価とかでなく、それを感じ取れるような一理論であって欲しいなあ、というのが自分の今の思い。
(2011 10/10)

サイードからスピヴァクへ


「ポストコロニアリズム」は4~5章、サイードからスピヴァクへ。といったところだが、サイードの対位法的読解や「知識人」、スピヴァクのデリダ発ポール・ド・マン経由の「脱構築」などためになる話があった。
個人のレベルでも歴史のレベルでも、オリエンタリズム前史…にはあまり言及なかった…まあ、紙面が限られているから仕方ないか。
「マンスフィールド・パーク」読んでみようかな。
(2011 10/11)

ポストコロニアリズム小説3つ、その他…


「ポストコロニアリズム」読み終わった…
他者と出会い、他者のことを(自分の論理で)代弁するのではなく、(言葉の形であるとは限らない)他者の語りかけそのものに耳を傾けること、それが植民地思考から脱する第一歩(語り口調も真似てみた(笑))。

さて、本の中で紹介されていたポストコロニアリズム小説?の概要から少しだけ。パレスチナと沖縄のは、最後に閉ざされた問いの投げ掛けがあるという点が共通点か。過去から、ということは現在からも孤立している人間の姿が印象的。ベンガルの迫る女性の小説は、言葉によらない語りかけの例なんだけど…こんなに強い人どれだけいる? と思った。
(2011 10/12)

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