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「第三の警官」 フラン・オブライエン

大澤 正佳 訳  白水Uブックス  白水社

第三の警官または箱小説


昨夜からオブライエンの「第三の警官」を読んでいる。村の近くに住む金持ちの老人を殺害し、3年後手提げの金庫を取りに来た語り手はそこで…
語り手のちょっととぼけた語りに、語り手が日夜研究しているというド・セルヴィについての報告口調、それに語り手の魂というジョーの語りといろいろ入り乱れて?いる。
さて、手提げ金庫を取りに来た語り手は、金庫に手を伸ばした時何かが起こり、ふと見ると殺害したはずの老人がいる。殺害したはずの老人が生き返ったわけではなく、当の語り手が死んでしまったわけだが、死者と生者が行き来するアイルランドでは別に普通のことらしく、物語は進む。

解説では、この小説はどんどん内側に箱の中にまた箱があるその内側に入っていくような構造をしている、と書いてある。箱と言えばこの老人の家に入っていく時のド・セルヴィについての語りで「家は箱型だからよくない」みたいなこと書いてあった。ついでに、語り手が手提げ金庫に手を伸ばした時、取っ手部分が取れて金庫は箱だけになった…
箱から出られるのか?
(2014 04/21)

多声がだんだんずれ平行になってくる印象


「第三の警官」を100ページくらい読み進めて、そういう印象を得た。前に書いた通り、この小説には語り手、ド・セルヴィ、魂ジョーなど多数の声が響いているのだが、始めは無関係かと思われたそれら声部がなにかずれながら平行しているように思えてくる。多分、結局は語り手という同一人物の頭の中(外?)の構成要素なので、それも当然なのかもしれないが。
一方、箱小説の観点からは、気が遠くなるほど、というかどっちかというと呆れてしまうような箱中箱の細工が出てきたり。
今まで引用できてなかったので、少しだけ。

 どうやら通例の三次元のうち少なくとも一つが欠けている、そのために何か肝要な意味が欠落してしまっているかのようなのです。
(p86)


多分、その欠けている次元は別のパラレルな世界に貸し出しているのだろう。または死んでしまうと立体認知は無理なのかな。
ところで、ド・セルヴィって、何者?
(2014 04/23)

ジョーの言葉から…

 ドウヤラ限界トイウモノガナイラシイ、とジョーが述べました。ココデハドンナコトヲ口走ロウトモ、ソレハスナワチ真実ナリ、結局ノトコロ信ジルホカハナクナルヨウダ。
(p141)


カタカナになっているのは魂ジョーの語りだから。
この小説読んでるとこっちがジョーの言葉を言いたくなる。原子交換による自転車人間とか…このネタ自体は「ドーキー古文書」にも出てきたものだから、何かオブライエンの拘りと思惑があるのだろう。例えば聖書とか?
(2014 04/25)

綱渡り小説

 ド・セルヴィは地球上の人間のありようを張り綱上の人のそれになぞらえている。綱渡りは綱の上を歩きつづけなければならない。さもなければ生命を落とすことになる。ただし彼はそれ以外のあらゆる点で自由な存在なのだ。
(p157)


全然自由じゃないっ…自由とはある種の錯覚に過ぎないのだろうか。この綱渡りの比喩はなかなか自分の実感捉えていていいなあ、と考えていたら、そいえば「ハードライフ」は綱渡りがメインな小説だった。オブライエンの場合、作品内だけでなく作品間でもぐるぐる循環するみたい。
その後、メイザーズ老人殺しの罪で絞首刑になるという話になって語り手は「なんで行き当たりばったりで無実の罪を…」と思ってたりするけど、あんたがやったんでしょ(笑)。
ってな楽しい本も、まだまだ190ページくらい。4月中はやはりきついか…
(2014 04/27)

死の中の夢は瞬時の生き返り


「第三の警官」面白おかしい発想が次から次へと出てきて楽しいのだが、その中に語り手が自分が埋葬される夢を見た場面がある(昨夜読んだところ)。語り手は今死んでいるはずだから、ひょっとしたらここは生き返って現実の自分の埋葬を眺めているのかな? ちょっと作品の真ん中辺り。そういう換気口が開いていてもおかしくはない位置。

今日読んで感じたのだが、この作品やたらに否定の答えの列挙が多い。語り手の名前から始まり、今日のところはカードの色や箱の手触りなど。とにかくどれにも似ていない、表現できない何物か、を探求しているのだろう。そしていよいよ絞首台に登った語り手が感じる内容は古代から続くアイルランド…いや、人類全体の彼岸への想いだろうか。奇想天外なこの作品中にも息を飲む美しい場面(このままでは終わらないだろうけど…)。
(2014 04/29)

睡眠は発作?


「第三の警官」を少しだけ読み進め。語り手の絞首台行きはなんだかよくわからない理由で中断し、次はまたド・セルヴィ(なんか本文ではセルビィになっていたような気もするが…気にしない)ネタ。そこに書いてあったのが彼の説という標題の内容。自分でそんなこと言っているわりには、本人はいつでもどこでも眠ってしまうらしい。この「偉大なる科学者・哲学者」ド・セルヴィって最初取っつきにくかったけど、だんだん可愛らしく思えてきた…
後はこの人、男女の別もよく間違えるのだとか。母親を男の中の男、だとか…
(2014 04/30)

いちごジャムと第三の警官と循環少数


なんだかよくわからないタイトルだが、これと同じくらいなんだかわからないままに「第三の警官」を1日だけ張出大関?で読み終えた。

警察官の異様な世界と、それでも語り手が知っている日常の世界を取り結ぶのが、作品名にもなっている第三の警官。これが殺害された老人の顔をしているという。ということは語り手死んだ直後?にあった老人は彼なのか? そんな彼がこの作品の鍵となっている箱の謎解きをする…と思いきや、彼はなんか知らないけどずっと、いちごジャムがどーのこーのとばかり言っている。なんかわからないけど殺害された老人の家の壁の内部にあるという警察署で。

そして最後は、共犯者というかそそのかした友人も死んで一緒にまたもやあの警察署に。そこの文章が奥行きないとか、次元が一つ不足しているとか、最初の時と同じ文章…のくせに、語り手も作者も全く新奇に捉えている。出版者の手紙とかいうこれもなんだかよくわからない後書きにもそこへの言及があった。まさしく循環少数のような小説。

でも、考えてみれば、語り手がちらと覗いた友人の普通の家族生活も、前の不条理な警官世界とあんまり変わらない、なんかよくわからないけど、なんでか日常…みたいにも思えてきたなあ…
(2014 05/01)

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