オーシャン・フロア・ダイヤモンドを探して

アマチュアの一番ではなくプロの最底辺に身を置くこと

僕は自己啓発本が好きなのだが、見出しの言葉は今まで読んだ本の中に出てきた一節だ。その話は、アメリカでロデオ競技(跳ねる牛の背中に乗る競技)のアマチュアコンテストで一番を取った人物が、ロデオの世界チャンピオンになったことがある先達に、どうやったらプロでも一番になれるかを尋ねたという話だ。チャンピオンは、「ずっとアマチュアの中にいてはいけない。すぐにでもプロの仲間入りをすべきだ。そこでは、自分より上がたくさんいることに打ちのめされるだろう。だが、それこそが重要なのだ」と言った(ジョン・マクスウェルの著作より要旨を抜粋)。アマチュアの人びとに囲まれて大きな夢を息巻いていることはとても居心地がいいことだ。自分を何一つ変えなくとも周りがちやほやしてくれるから。それに対して、その道のプロに接して、自分が何もできないしわかっていないという現実に打ちのめされることはとても辛い。恥ずかしい。だから、多くの人はアイディアや夢を語るだけで行動せずにまた日常に還っていく。

先達はあらまほしきことなり

先日、マッキントッシュの時代からWebやDTPスキルを活かした地域活動を続けてきた地元の先輩(60代後半の男性)に会う機会を作ってもらった。そこで、自分の構想を語り、いまの自分に何が足りないかを教えてほしい、と伝えた。そして、①ノートPCで印刷広報物を作ることはお勧めしないので最低でもモニター2台を設置したデスクトップPCを用意すること、②まずは自分の構想を描いたWordの企画書の内容を表現したフライヤーを作ってみること、③焦らずに取り組み、できればこの趣味的な活動のほかに人と一緒に楽しめる趣味も持つこと、などをアドバイスされた。①について、僕が学生だった時から他のまちづくり系サークルでイラレを使って地域活動をしていた知人友人であれば、いまでは10年以上そのような活動をしてきているわけだから、こんな基本的なことでは躓かないだろう。だけど僕は全くの素人だし出版の仕事をしたこともないので、こんな基本的なところもわからない。お会いして話を聞いた先輩には少し驚かれた。このように常識とされていることを尋ねるというやりとりをこれから先何度も何度も繰り返すのだろう。この経験を30代前半でしているということは、僕の主観にとっては遅いように感じられるけれども、お会いした先輩は「じっくりスキルを高めていける時間の余裕がある」と言っていた。一生の相のもとで捉えることが重要だとかねがね考えていたが、その考え方は合っていたのだと信じたい。

メタ認知:アイデンティティ・キャピタルの視点

少し話がずれるが僕はリンダ・グラットンのライフシフト信者であるので、関係人口創出メディアへの取り組みを含めた自分の位置づけを記述するならば、「生産性資産」(経験やスキル)についての移行をしようとしている。すなわち、19~29歳までの期間における「国立市への関わり」や「社会学でインタビュー・執筆をした経験」という自分なりの資産がある。この資産を生かす形で、デザインスキルという今までとは異なる専門性を核とした新たな生産性資産を32~42歳頃のスパンで培おうとしている。また、メグ・ジェイの『人生は20代で決まる』の視点からの方がよりわかりやすいが、20代で得た「アイデンティティ・キャピタル」(時間をかけて身に付けた、自分の価値を高める経験やスキルのこと)を足場として新たなアイデンティティ・キャピタルを形成しようとしている、と捉えることもできる。メグ・ジェイは、自分のアイデンティティ・キャピタルを形成するためには最初は「上司のためにスターバックスのコーヒーを買ってくること」をはじめとした雑用を含む下積み期間を誰もが経験している、と書いていた。もっとも、僕にとって25歳からの社会学修士課程の期間がそれであり、いまは32歳なので厳密には期間のずれがあるのだけれども、「新しいアイデンティティ・キャピタルを形成するために最も地味で基本的なところから始めなければならない」という点では同じだと考えている。以上のようにメタ的に自分の行動を捉えている。

オーシャン・フロア・ダイヤモンドを探して

だから、次に僕が浮上する時、すなわち、自分の取り組みの経緯と成果物が多くの人びとの目に触れる時までは、「正解」や「常識」が伝播しては共鳴し続けている騒々しい日常の、その水面のずっとずっと底深くに潜って、海底に積もった泥の隙間から見えるダイヤモンド鉱石に目を輝かせていよう。

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