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食べものエッセイ12「牛丼紅生姜てんこ盛り」

 牛丼屋で紅生姜べにしょうがうつわいっぱいに乗せているヒトをたまに見かける。
 牛丼に紅生姜は本当によく合う。
 自分も牛丼屋に入った時には、これでもか、というくらい紅生姜を盛ってしまう。牛丼の甘辛い味付けにしょっぱくて酸っぱい紅生姜が、食欲をモリモリとかきたてる。
 そんな皆を見ていると、牛丼が運ばれるやいなや、おもむろにテーブルそなえ付けの紅生姜のフタをガッと開け、わしわしと紅生姜を肉の上に盛っていく。その姿は、もはや牛丼というより紅生姜丼だ。
 そして牛丼を食べ始めるのだが、なかなか牛肉とご飯にたどり着かない。最初は紅生姜ばかりをむ人生である。シビレを切らしたサラリーマンは、肉とご飯の掘削くっさくを試みるが、山と盛られた紅生姜が崩落ほうらくを起こし、テーブルをくれないに染めている。
 自分も以前はこの、掘削と崩落の人生を送ってきた。だが最近は少しやり方を変えた。これが実に心地良い。
 まず、牛丼が運ばれて来たら紅生姜はグッとこらえて牛丼を食べる。ここぞと思うスポットを垂直に掘り下げ、底までの空白(ポケット)を作る。このポケットに紅生姜をよいしょよいしょと詰め込んでゆくのだ。ポケットの大きさは、自分が食べたい分量の紅生姜が入るくらい。
 これは我ながらとてもGjグッジョブな方法だと思う。紅生姜の崩落もないし、牛肉も露出しているし、見た目も「丼の端に行儀良く紅生姜が乗った牛丼」である。誰もその一角が底まで紅生姜だとは思うまい。
 ぜひ一度お試しあれ。
 ところで、牛丼屋の紅生姜ってなんであんなにたくさん食べることが出来るのだろう。家で牛丼を作り、紅生姜を買ってきて食べてみたが、あそこまで紅生姜を乗せる気にならなかった。
 牛丼屋の紅生姜と市販の紅生姜の違いは何か?
 今のところの結論としては、それは「水切り」である。牛丼屋の紅生姜はある程度汁を切った状態で容器に入れられる。そして時間と共に上の方の紅生姜の汁は下に落ち、容器の底に溜まってゆくのである。この、程良い汁の切れ具合が、牛丼にちょうど良いのではなかろうか。
 試しに市販の紅生姜の汁気を切って牛丼と一緒に食べたところ、だいぶ近づいた。だがやはりもっと「牛丼屋リアル紅生姜」を追求するには牛丼屋の紅生姜の容器のように、時間を掛けてもっと汁を落とさねばならない。
 テイクアウトの牛丼にはレジ横の小袋入り紅生姜は必須である。あの小袋に入っている紅生姜も程良く汁が切れている。しかし如何いかんせん量が少ない。出来れば片手でぐわしっ!とつかんで、持ち帰り用の袋にどっさり入れたいのだが、なかなか勇気が出ない。あれは一応無料ということになっている。しかし我らにとって無料であっても彼ら(お店)にとっては無料ではないのである。
 出来れば小袋はテイクアウトして欲しくないハズである。店内ではあれほどわしわし盛れる紅生姜がテイクアウトになった途端、持って行きづらくなるのは不思議である。あの「小袋に少量」が、我々の良識を試しているような気がする。
 どうせ小袋にするなら、クレーンゲームにして10円でわしっと取りたいのである。
              ーENDー

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