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たべものエッセイ 8

「豆乳鍋は投入鍋だ」
 豆乳鍋が好きで、よくやる。
 豆乳鍋の作り方は簡単である。
 水で割った豆乳に白だしを入れて、好みの味に調節したら具材を煮てゆけばOKである。豆乳と水の割合はテキトーで良いのだが、僕は豆乳と水の割合を1:1から2:1くらいの割合にしている。この鍋つゆは、火を入れる前に味見が出来るのが良いところだ。煮詰まることを考慮して味の濃さを調節する。もし食べていて味が濃くなってしまったと感じたら、豆乳を足せばいいので、とてもカンタンである。
 具材は好みのものでよいのだが、最低限、コレを入れると美味しいというものを挙げておく。
 鶏もも肉(豚小間ぶたこまでもよい)、豆腐、油揚げ、白菜(またはキャベツ)である。シメジやエノキなどのキノコ類を入れてもいいが、なくても十分に美味しい。豆腐と油揚げはモロ豆乳とかぶっているが、それ故に非常に相性が良い。油揚げは豆腐と違ってあまり鍋では見かけない具材だが、コクが出て非常に味が良くなるのでぜひ入れて欲しい。
 豆乳鍋はスープも美味しく飲めるので、その点も気に入っている。そして豆乳鍋のもう1つの魅力が「味変あじへん」である。よくラーメン屋などでニンニクを入れたり豆板醤を入れたりして味を変えるのがあるが、豆乳鍋も変化をつけて最後まで楽しめるのである。
 まずスタンダードな豆乳鍋を一通り堪能したら、次に入れて欲しいのが粗挽あらびきのブラックペッパーである。ピリリと味が引き締まって思わず背すじが伸びる。
 黒コショウを味わったら、次にそこにピザ用のチーズを入れる。チーズはピザ用でなくても、どんなチーズでも美味しいが、とろけ具合が良いのでピザ用チーズ。チーズを入れると少し洋風になって、満足感がアップする。豆乳の軽くてクリーミーな味わいに、濃厚なチーズの旨味が加わって、一気にテンションが上がる。
 さて、最後に足すのは何だろうか? ヒントは鍋のしめだ。鍋のシメといえばうどんやご飯などが真っ先に思い浮かぶ。もちろん、豆乳鍋にうどんやご飯はよく合う。だが豆乳鍋のシメにはもっと合うものがある。それはお餅だ。
 フツフツと煮え立つ鍋の中に、切り餅を直接入れても良いが、餅は、入れる前にオープントースターで焼いておくと香ばしさが加わり、一層風味が増す。この焼いた餅が鍋の中でトロリと溶け、さらに流動する。そこにチーズがからんでもうたまりまへん。
 このように、豆乳鍋には、スタンダード→ブラックペッパー→ピザ用チーズ→餅と、カンタンなものを1つずつ加えていくだけで、味の変化が次々と楽しめる鍋なのだ。
 豆乳鍋は、もはや投入鍋と化し、最初のシンプルな和風味わふうあじは、複雑な和洋混合鍋へと進化し、最後はその混沌こんとんを、純和風じゅんわふうの餅で一気に収斂しゅうれんさせてしまうという荒技あらわざにして大団円だいだんえんの鍋なのである。

                ーENDー

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