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たべものエッセイ 6

「鮮魚コーナーの“おつまみセット”」

 スーパーには鮮魚コーナーがある。
 普段はお刺身やその前段階であるサクを買ったりしている。そのコーナーで時々見かけるのが「おつまみセット」だ。
 パック詰めのお刺身を作る時に出た、言わばお刺身の端切はぎれの詰め合わせセットである。端切れなので全体的には「端っこの部分」ということになる。大きさもマチマチ。種類もいろいろ。
 いろいろな人種の端くれが集まって、一部屋に詰め込まれている様子は、さながら「お刺身界のならず者集団」である。ならず者というと、暗く危険な雰囲気が漂う。
 でもおつまみセットは楽しい。
 先ほども書いたが、種類がいろいろなところが楽しい。いろいろな人種の端くれが楽しい。
 ひとつつまんでは「おっ、これはブリだな。こんな端くれなのにちゃんと脂が乗ってるぞ」とか、「ほう、このマグロの端切れは何と中トロではないか!」などの思わぬ感動が次々に味わえるところが楽しい。
 おつまみセットは、どれ1つとして同じものがない。値段は同じ1パック398円なのだが、内容は全部違う。パックひとつひとつを吟味している時が楽しい。同じ値段のフツーの切っつけの刺身に比べても、その量は1.5倍は入っている。僕はこれにタコの足が入っていると、とても心かれてしまう。普段は鮮魚コーナーでもタコなんかほとんど買わないクセに、タコの足が入ったおつまみセットを見つけると、パックをいろいろ比べてタコの足が少しでもタコさん、いや、たくさん入ったものを買ってしまう。かと言って「タコの足8割、魚2割」というのもいただけない。タコの足は2〜3割くらいが理想である。おつまみセットのタコの足は「異形いぎょうの魅力」である。その他大勢のショッカーの中の怪人なのである。量産型のジムの中のガンダムなのである。そんなワケで、タコの足をようしたおつまみセットはキラリとした光を放つのである。もちろん、種々のお刺身の魅力あってのことだけどネ。
 このひとつひとつのお刺身を箸でつまみ、ワサビ醤油につけて口に運ぶ時が楽しい。
 昨日買って来た「おつまみセット」の中身は、マグロ、ブリ、カツオのたたき、タコ、サーモン、イカであった。どうです、なかなかゴージャスな面々ではありませんか(端切れだけど)。
 今、「ワサビ醤油をつけて」と言ったが、それも端切れの種類によっては事情が違ってくる。例えばこの端切れ(ピースと呼ぼう)がアジ、イワシ、カツオ、イナダなどで構成されていた場合は、ショウガ醤油を選択しても美味しい。
 さらに、少しゼータクにワサビ醤油とショウガ醤油、何ならポン酢醤油を用意して、箸でつまみ上げた魚種によってつけだれを変えるのもとても楽しい。タコやイカなどのピースは三杯酢さんばいずけておいて、中〜終盤に食べるのも美味しいし、マヨネーズをつけて食べても、いいツマミになる。
 浸けると言えば、づけだれを作ってその中に混沌としたままのピースを投入し、づけピースにしてもたまりまへん。
 この前作ったづけだれは、醤油にみりんを混ぜ、その中に柚子コショウを入れたものだった。これが旨いのなんの。そのままツマミにしても良し、酢飯の上に乗せてバラチラシとしても堪能出来る逸品いっぴんであった。
 今、ひらめいたのだけど、このおつまみセットをかき揚げ風天ぷらにしたらどうだろうか?
 海鮮かき揚げ丼の王者が出来上がるに違いない。
 天丼が、だれもがひれ伏すラオウだとすれば、おつまみセットの海鮮かき揚げ丼は、「北斗百裂拳」を叩き込むケンシロウである。7つの魚介を持つ男なのである。
 おつまみセットは、まさにスーパー鮮魚コーナーに出現した世紀末カオス状態の救世主パックなのである。

                       ーENDー

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