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仔パンダラブ

かつて仔パンダに会いたくて、貯金をしていたことがある。


白と黒が絶妙な黄金比率、タレ目で愛嬌のある顔、まぁるい身体、コロコロした動き。
なんで、こんな愛らしい生き物が存在するんだろう。
とにかく、ぬいぐるみみたいなキュートな仔パンダに会いたい!
財布の中に500円玉が入ると、仔パンダ貯金として、貯金箱に投じていくのだ。
なのに私の貯金能力が低いせいで、なかなかお金は貯まらない。
あっという間に仔パンダは成長し、大きくなっていく。
また仔パンダに会えなかったとガックリするのであった。


もう大きくなったパンダは、人間(それもおっさん)が中に入ってるようにしか見えない。
や。成長したパンダだって好きだけど、やっぱり仔パンダの魅力は何にも勝るのだ。
私は成長した大人パンダではなく、コロコロと丸い仔パンダに会いたいのに!
あの、ふわふわの毛は柔らかいのだろうか。
動く本物を見た時の感動とは、どんなものだろう。


2017年5月、上野動物園には、まだ仔パンダは誕生していなかった。
だから仔パンダに会う為には、浜家と呼ばれるパンダファミリーが生息する、和歌山の南紀白浜にあるアドベンチャーワールドまで足を運ばねばならない。
当時、私が住む博多から南紀白浜への旅行会社のツアーは2つしかなかった。
福岡から和歌山への船旅(移動時間およそ12時間!)。
もしくは飛行機で福岡空港から羽田空港へ飛び、さらに羽田から南紀白浜空港へ飛ぶという日本地図で見ると、なんともムダな行程の2択であった。


そんな中、関西圏に住む友人の計らいで、和歌山のアドベンチャーワールドに行けることになった(友よ、ありがとう。未だに感謝している)。
アドベンチャーワールドには、前年産まれた結浜という赤ちゃんパンダがいた。(ちなみに2020年5月現在、一番の末っ子は彩浜である)。


実際に会えた仔パンダは、可愛いなんてものじゃなかった。
よちよちと歩く。
母パンダにじゃれる。
でーんと、転がる。
大人げなくガラス張りの一番前に陣取って、ずっと仔パンダ結浜と母パンダを眺め続けた。私はその姿を心のメモリに焼き付けることに専念し、友人にはカメラで記録させた(つくづく友よ、ありがとう)。


一日中だって、眺めていられる。まったく飽きない。あぁいとしの仔パンダよ。
確かに実際に足を運ばなくても動画でも見られるが、目の前の実物にはかなわない。例えガラス越しであっても。
こうして、はるばる仔パンダに会いに行く旅は終わった。


その旅は、私に思わぬ結果をもたらした。
職場でこの旅の話をして、非常に驚かれ、私個人に興味を持たれたのである。
え?みんな仔パンダ、好きじゃないの?
私だけ?
ちょっと衝撃だった。


こうしてカミングアウトをした私の元には、皆からパンダグッズが集まるようになった。有難い話である。
こんなパンダグッズが売ってたよという売り場情報まで寄せられた。(百貨店で販売されているスワロフスキーがあしらわれたパンダバッグは、さすがに高級な香りがして近づけなかった)。


これまで私は、自分が大好きと思える物の存在を吹聴することがなかった。
いや、自分でも気づいていなかったのかも知れない。
周囲に子どもじみていると批判されることを恐れて、自らを封印していたようにも思う。
自分の「大好き」を他者に認識されると、共感と興味を持たれ、私自身に個性が生まれる。
「大好き」って、人との距離をグッと近づける行為だったんだ。
これまで、どこか人と距離を取り続けていた私が悟った出来事だった。

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