憲法草案〜第9章 緊急事態〜

緊急事態条項について

緊急事態条項(国家緊急権)とは、「国が緊急の有事の際、一時的に強い権限を政府(内閣)に与えること。」と言えます。
このことがいかに危険なことかは、歴史が語っています。
1919年に制定〜公布された「ワイマール憲法」(ヴァイマル憲法)です。
「ワイマール憲法」は、制定当時、国民主権や様々な国民の権利を認めた民主的な憲法として「20世紀における最も注目すべき典型的な憲法」とされていました。
しかしながら、この憲法下で、憲法を改正・廃止することなく、合法的な手段によりナチスの独裁体制を成立させたことを忘れてはなりません。

自民党草案の緊急事態条項については、木村草太氏の記事が詳しいです。
また、2020年初頭のコロナ禍において、安倍首相及び自民党から緊急事態条項の必要性が言われています。
それに対する各紙の論調も分かれています。
感染症法に基づく緊急事態宣言が発出され、補償無き自粛が行われ、混乱を来している状況で、まともな議論ができるとは思えません。
仮に憲法改正を進めるにしても、平時に行うべきです。

自民党(2012年)草案の緊急事態条項

自民党(2012年)草案で記載されています。
当然、現行憲法および独自草案には、ありません。

第九十八条(緊急事態の宣言)
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
第九十八条2
緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
第九十八条3
内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
第九十八条4
第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるものは、「五日以内」と読み替えるものとする。

1〜3項の共通点として、「法律の定める」があります。
こんなに危険な条項を、国会の多数派が好きに出来るということです。
主権者として許容出来ますか?
更にいえば、法律に「政令による」としてしまえば、閣議決定で何でも出来るようになります。

第九十九条(緊急事態の宣言の効果)
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
第九十九条2
前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
第九十九条3
緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
第九十九条4
緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

本条が緊急事態条項の本丸です。
前条と同じく「法律の定める」が続きます。
1項により、国会の審議が無くても政令で刑罰や税率も変更出来るようになります。
後段により、地方自治は停止されると同意です。
2項で、「事後に」国会の承認を得ることになっていますが、期限も法律で定められます。
もっと言えば、この法律も緊急事態中であるならば、政令で上書き出来ます。
国会の承認期限が、永久に来ないような運用も可能です。

3項が国民の権利の停止です。
「国その他公の機関の指示」が、国民の権利よりも優先されます。
明記されているのは
第十四条:法の下の平等
第十八条:身体の拘束及び苦役からの自由
第十九条:思想及び良心の自由、個人情報の不当取得の禁止
第二十一条:表現の自由
です。
これらは、緊急事態下でも「最大限に尊重」されるとなっています。
この表現は、どこかで聞いたことがありませんか?
官房長官の記者会見です。
「様々な検討を重ね、最大限に尊重した結果です。」
この台詞、よく言っていますよね。
最大限に尊重した結果、大幅に権利を制限することが出来るのです。
とんでもないです。

4項は、衆議院の解散の延期及び両議院の任期を延長することで、選挙を行わないように出来ます。
当然、民意は無視されます。
また、3項には「何人も」となっていましたので、国会議員ですら逮捕・拘束される恐れもあります。

特に今般の感染症のようにリスクがゼロにならない事項に対して(他のものでも、リスクが続いていると言い続ければ良いのですが)、緊急事態を発出した場合、永久に抜け出せない(抜け出さない)立て付けになっています。

いかがでしたでしょうか?
いかに危険な条項か、ご理解頂ければ幸甚です。

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