その22. ◆そして、その後―――

◆ そして、その後――――


 あれから三か月、けっこう記憶は薄れてきたものの、宇宙船から見た地球のみずみずしい美しさ、そしてコロナうずまく太陽のエネルギーは忘れられない、とパパは言います。
「っていうか、地球や月や太陽のイメージは写真で見なれているから記憶に残っているけど、ほかの星たちは見なれていない分、記憶に残りにくかったのかも。パパはもう、夢で見たことみたいに、いろいろ印象は薄れてきちゃったよ。あはは」
 今では月一の恒例になったファミリーパーティで、はふはふと豆腐をつつきながらパパは言います。
「ボクは覚えてるよ! いろんな星とか、ピカリィのいろんなカタチ。マザーヴォイスとか、宇宙船の中とかっ」
「ケンタはまだ子供だから、記憶の容量が大きいのよ。ママなんて、言われた内容をなんとか忘れないようにするのでせいいっぱいよ」
「でもママ、かっこいいよ、いきなり英会話のレッスンはじめてさ。家事しながらヘッドホン聞いてペラペラやってるの、サマになってきたよね」
「うっふふ。いつかピラミッドに旅行に行くときの準備にね、現地でかんたんな会話くらいはしたいじゃない。で、やる気が続くよう、イケメンティーチャーのいる教室を探しまくったわけ」
 ね、あの先生イケメンだよね、とママとマコは笑いあいます。
「でもねえ、英会話習おうって欲望がわいて実行できたのって、すぐにじゃないの。その前にチャレンジしていた、いちばん苦手だと思っていた《6.ZERO/無》が効いたみたい。なんで私ってこんななんだろうってカリカリするの、すぱっととやめてみたのよ。で、仕事の時は仕事に集中。買い物のときは、どうせ作ってもアツアツは食べてもらえないなーとか考えず、必要なものを買うことに集中。ごはんをつくるときも、目の前のブロッコリー、ひき肉とのおいしさ勝負に集中。そしたら、あら不思議。いろいろ、カリカリしなくなってきて。急に、スコーンとひらめいたのよ。数年後にピラミッド行こう! そのために英会話習おう! できれば、練習がてら、日本に来る外人旅行者のためのボランティアもしてみたいなって、ピンと来たの。なんでかしら?」
「それこそ、魂がわかがえったからなんじゃないの? 私はうれしいよ、ママがイキイキして。それに、最近、ママの手料理が増えたのもね。バイトから帰ってチンするのだって、やっぱりうれしい」
「ありがと。ほとんど時短の手抜き料理だけどね。月一の家族パーティも、楽だから鍋にしちゃったし」
「鍋パーティ、ボク大好きだよ。手抜きなんかじゃないよ」
「うむ。みんなでつつく鍋は、やっぱり、いいものだな。ヘルシーだし」
 パパの言葉に、ママはにっこり。
「ヘルシーと言えば、パパのウォーキングも続いてるわよね。前は運動なんて全然してなかったのに」
「ははは、そうだな。ぼちぼちボディ・メンテナンスできてるかな。遅くまで晩酌しながらパソコンの日も少なくなったし。さいきん雰囲気かわりましたね、なーんて会社の若い子に言われたりしちゃってさあ。もう、このまま、ジム通いはやめて、筋トレとウォーキングでいいのかも。散歩仲間もできて、今年は富士山の登頂にチャレンジしようかな、なんて。あんがい、ストレス解消になってるんだよ」
 わはは、と笑うパパにマコはビールのお酌をする。


「いいんじゃない? 無理しないのが長続きの秘訣だよ。私なんて、あれだけ無理してがんばって自分をつくろってたSNS、かなり放置してたんだ。もうアカウント消してもいいかな、くらいな感じで。たまに投げやりなボヤキっていうか、とぼけたつぶやきをのせたら、キャラが変わったって、なんでか前より人気でちゃって。どうでもいいやってチカラが抜けると、こんなに違うものなんだね。前みたいに、いちいちみんなの反応をチェックすることもないし。少しずつ、自然体になれてるのかも。だから、今の私がとりくんでるのは《4.One-I(我・イチ)》だね。私が見せたい理想の私じゃなくて、自分の原型やワガママを掘り起こしてるっていうか」
「え、マコねえちゃん、それ以上ワガママになるつもり?」
 ケンタが茶化すと、マコは少し照れながら、
「悪い意味のワガママじゃないもんね。むしろ、人の機嫌を取らない、でも魅力的な私を模索中なの。で、まだ続きがあるのよ。欲望のままにバイクの免許を取ろうと思い立って教習所に通っているうちにぃ、なんと…………すてきな彼氏ができましたぁ!」
 なにっ、とパパが目をむき、ビールのグラスをドンとテーブルにたたきつけます。
「聞いてないぞっ。いや、バイクの免許のところまでは聞いたが、彼氏までは聞いてないっ」
「まあまあパパ、落ち着いて。彼氏っていっても、バイクと同じでさ、仮免レベルまでたどつけるかもわからないし。マコねえちゃんの本性を知ったら相手も失笑して失望、すぐに逃亡かもしれないしさっ」
「こら! ケンタ! あんた、いつからそんなに口が悪くなったのよ!」
「あ。痛いことつかれ、いたたまれない、いただけない感じ? ごめんごめん。そんな興奮しないで、ボク、おとなしく降参するからさ。調子に乗っておちゃらけすぎたよ。ほら、お茶でも飲んで落ち着いて、ねっ」
 ほうじ茶をマコにすすめながら、ケンタはぺろりと舌を出す。
「こんなふうに、今のボクががんばってるのは5.OUTPUT。思い切って、テキトーに日々の出来事をラップにして動画つくったら、ウケちゃって。それが縁でオンガクやってるお兄ちゃんたちとつながって、路上ライブしたんだ。めっちゃ緊張したけど、楽しかった! こんど、地元の商店街のフェスティバルにも呼ばれてるんだ」
「そうなのよ、ケンタの日常ラップったら、すごい人気。コドモがラップっぽいのしてるっていうだけで、ウケてるの。ずるいわよね」
 マコがぷくっと頬をふくらませます。
 ケンタは目をぐるっとさせておどけました。
「なんでかな、ボク、あれ以来、急にふっきれたんだよね。塾のトモダチの前でも、こんな調子でバカができるし。授業でわかったふりしてたことも、思い切って、わかんないでーすって質問してみたり。あと、サッカー友達に声かけて、集まれるヤツだけでときどき遊んでるんだ。そのぶんネットゲームする時間はへったけど、すごく楽しくて。なんかコドモらしくなれたかなって感じがしてる。オトナになるのは、もっとゆっくりでいいかなって。この気持ち、ピカリィに伝えたいよ」
 にこっと笑うと、食べざかりのケンタは十枚目のお肉に手を伸ばします。
 そして…………

 テラダ家におこった最大の変化は、
「ワン! ワン!!(ぼくにも注目して!)」
 興奮してみんなの周りを飛び回る、子犬の存在です。
 まえの子が亡くなったのがあまりに悲しくて、もうペットは迎えないとママが宣言していたのですが、考えを変えました。
 日々の暮らしに、レッスンの成果を取り入れていこうと決めたのです。
 これでほんとうに、テラダ家は「さみしくなんか、ない」おうちになりました。


《生まれるとは死ぬこと。欲するとは失うこと。
 愛することは痛みを伴うこと。
 それを、受容しては、吐き出していきましょう。

 呼吸できること・生に感謝し、
 死ぬこと、老いていくことを赦します》

 肉体も記憶力も魂も、生まれ落ちてから、死への一本道をたどっています。
 ピークを迎えた後は、下りのエスカレーターにどんどん運ばれて、
 気が付けば魂は動くのもおっくうな老人に。
 しかも、ネットや、つくりものの娯楽や情報に魂を与えすぎると
 老化の加速度はどんどん増すので、
 電波づけ情報漬けの現代では、子供だって魂の老化におびやかされているのです。

 だから、魂のアンチエイジング。
 自分で考え、感じて、自分でチャージ、チェンジ、そしてチャレンジ。
 一回コツをつかんだら、あとは好きな時に好きな順番で、
 好きなステップにトライしてみてください。

 …………おや。この物語の終わりに、マザーヴォイスからのメッセージが聞こえてきますよ。

《ここまで読んでくれたあなたなら、きっと大丈夫。
 魂はいつまでもピカピカと、おもしろいことが大好きで、
 変わることや冒険をおそれない、若々しいままでいるでしょう。

 さあ、意識を広げて、自分がどこに向かいたいか決めてください。
 どんな人になりたいか、何を体験したいか、
 どんな人と出会いたいかを決めるのです。
 ………… ………… …………。


 いま、あなたは、何を、そしてどこをイメージしましたか?
 そこが、とても素敵な場所でありますように。
 あなたの人生のすばらしい旅、応援しています!》


                                    END 2017,3

【追記・実践のまとめ】

 老化した魂は鈍感だけれど、ケアをしていきいきした魂は、それだけ敏感でもあります。
 なにかストレスを感じたら、6.ZEROか9.Thanks,Forgiveのパワーを使ってください。

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・日常のストレスやトラブルには、ほんの短い間でも6.ZEROのパワーを使って、ほんとうはあなたはいつだって何もかもを手放せる、何も感じなくていい、休んでいいのだということを思い出して。ヨガの死体のポーズをためしてみてもいいでしょう。
 パニックになりそうなときには、静かで安全なところに自分がいるとイメージします。たくさんの流星をすいすいとくぐりぬけている自分、無の境地で宇宙にただよっている自分をイメージしてください。
 時間がない時、満員電車などでぎゅうぎゅうでも逃げ場がない時になどは「ココロ・フリーズ!」という短い一言に、これらの瞑想を凝縮させて、自分が安全なシールドに守られているのをイメージするだけでも効果があります。
 そしてそのあとは、なにくわぬ顔で、できるかぎりのことをこなしていきましょう。

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・チャレンジがうまくいかなかったりつらいことがあったら、いつでも9.Thanks,Forgiveのパワーを使いましょう。静かな場所(またはそれをイメージできる場所)で、深呼吸して《(この世界に)感謝します、(この世界を)赦します》と唱え、エネルギーを頭長から足元へと流してください。
 その時に即効性はなくても、徐々に感情のパイプのつまりは解消されます。感謝するのは、ひどい相手や起こったことそのものではなく、あなたの存在を赦している、この豊かな世界です。赦すのも、ひどい相手や事件の当事者ではなく、あなたの存在とともにある、このリアルな世界です。

・この魂のアンチエイジングのステップは、それぞれの意義とパワーを感じされる絵柄のカードになっており、イメージングの手助けとなっています。
 ひととおり理解していただいた後は、【心の救急箱】というオラクルカードとしても利用できます。
 気軽に宇宙からのメッセージがほしい時、ランダムに引いて、今の自分に必要なメッセージを受け取ってみてください。

ここまで読んでくださったあなたの人生がピカピカに輝きますように。

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