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#7 好きな気持ちに嘘をつかず、覚悟を決めて行くべき道を進む

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好きなことを「好きだ」と、胸を張って言う。
とてもシンプルな宣言だ。
それがメジャーなものであろうとなかろうと、関係ない。

今回は「プンチャック・シラット」というインドネシアの伝統武術・日本代表選手との対談。
シラットについて理解している日本人は多くない。
それでも、新たな道を拓く挑戦をあきらめない。

好きな想いに覚悟を持って向き合うことの意味を、考えてみる。
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自己紹介:yamamoto hayata 山本 隼汰
共創サークル『不協和音』と、このメディア『対岸』のオーナー。

自己紹介:麻生 大輔さん
プンチャック・シラットの日本代表選手。学生時代に競技を習い始め、さまざまな世界大会に出場している日本における第一人者。現在は日本プンチャック・シラット協会の理事も務め、認知向上と普及にも励んでいる。
連絡先:日本プンチャック・シラット協会HP

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アスリート:麻生 大輔さん

インドネシアの伝統武術・プンチャック・シラット

山本さん:シラットって、インドネシアの武術なんですよね?

麻生さん:はい、正式名称は「プンチャック・シラット」と言って、マレーシア、インドネシア、シンガポール辺りの地域が発祥と言われています。日本の空手や柔道に近いイメージです。

山本さん:僕、動画で実際のシラットを見てみたんです。なんか…舞踊っぽいなとも思いました。

麻生さん:それは、シラットがたどってきた歴史的な背景と関連していると思います。かつて、インドネシアやブルネイを含むマレー地域が植民地だった頃、各地の住民の反乱を阻止するために武術そのものが禁止されてしまったんです。それでも伝承を絶やさぬように、シラットは伝統舞踊としてひそかに伝えられました。それが、武術でありながら舞踊の要素もある理由のひとつですね。

山本さん:そういった歴史から理解できると、同じものでも見方が変化しそうですよね。今では、シラットは純粋な競技スポーツなんですか?

麻生さん:そうですね。1980年にインドネシアが中心となってマレー地域の国々と国際プンチャック・シラット協会(プルシラット)が設立し、国を越えた競技会が行われるようになりました。日本に協会が設立したのは1996年です。現在ではASEANの東南アジア競技大会(SEA Games)とASIAN GAMES(2018年〜)でも、正式競技に採用されています。

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おそらく、シラットを以前から知っていた人はそう多くないと思う。
未知なるものを前に、どんな姿勢でアクションを取るのが良いのだろう?

状況が変われば、「違い」は「強み」になる

マイノリティであること。
それは時として迷いや心細さをもたらす要因になるかもしれない。
だけど、そこで立ち止まらないことで、見えてくるものがある。

山本さん:なるほど。率直にお聞きしたいんですけど、麻生さんはなぜシラットをやろうと思ったんですか?

麻生さん:最初の出会いは、インドネシアに留学していた時に見かけたイベントでした。その時は見ただけだったんですけど、帰国後、武道か格闘技を習いたいと思っていたら、日本でもシラットができるって知ったんです。「ちょうどいいや」と、気軽に始めたのがはじまりでした。

山本さん:それって、おもしろい決断だな。だって、空手や柔道をするという選択肢もあったわけだし、日本でやるならその方が自然でしょう? インドネシアに行ったら行ったで、外国人選手としてマイノリティとみなされる。それでもシラットをやりたい、続けたいと思うモチベーションってどこにあるんだろうって思いました。

麻生さん:やろうと思った理由は、インドネシアは縁があっておもしろそうと思ったくらいですね。でも、続けているモチベーションは2つあります。
1つは、大会に出場する楽しさを知ったこと。シラットを始めて数カ月経った頃に「アジア大会を目指さないか?」と声をかけてもらったんです。驚きましたけど、チャンスがあるなら挑戦しよう、と。

山本さん:展開が早い(笑)どうだったんですか、結果は?

麻生さん:世界レベルの格の違いを痛感しました。同時に、なかなか得がたい経験もたくさんありましたね。実は、初めての大会出場の後、インドネシアに渡り約2カ月武者修行を積んだんです。その時、コーチのはからいでインドネシアのナショナルチームの練習に参加させてもらいました。大会でも一緒に練習した選手が場を盛り上げてくれて、すごくありがたかったです。

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山本さん:僕が想像していたよりずっと、受け入れられているって感じがします。

麻生さん:そうかもしれません。一生懸命シラットの練習をしている外国人がいるぞ、応援しよう…というインドネシア人が多かったですね。

山本さん:シラットって、日本ではいわゆるマイナースポーツだと思うんです。スポーツに限らずそういうものって「それ何?」「何がおもしろいの?」って言われますよね。それが続くと「あれ、俺の好きなものって、なんか違うのかな?」って、気持ちにかげりが差しやすいのかな、と。
その点、麻生さんにとってのシラットは、インドネシアの人たちとうちとける接点になっていたみたいですね。

麻生さん:まさしく。僕も、アジア大会に行くまでは「俺、何でこんなに練習してるんだろ?」と感じたりしていました。でもインドネシアでいろんな人と知り合えたし、練習を重ね、大会で結果を出せるようになると、シラットをやっていることに自信が生まれてきたんですよ。逆に「マイナースポーツだからこそ、こんなに早く日本代表として大舞台に立てるんだ」と思うと、引け目は感じなくなりました。

山本さん:日本ではシラットが「違い」でしかなくて“周りから理解されにくい変わったスポーツ”だったのに、インドネシアに行ったらむしろ相互理解を深める武器になった、ってことかな。環境が変わることで「違い」が「強み」になることもあるんですね。

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わからなくても、否定しない。せめぎ合う心さえも、認められたら

わかりにくいものでも好きだと思う心。
わかりやすいものを求めてしまう心。
揺らぎながら削がれ、磨かれ、最後に残る本質にたどり着くまで、自分自身から目をそらさずにいたい。

麻生さん:山本さんも何かマイナースポーツをやっていたんですか?そんな口ぶりだったから。

山本さん:僕は学生時代にフォークダンスのサークルに入っていました。衣装も自前で用意して、振り付けを練習して踊るんですが、なかなかその魅力を理解してもらえなかったですね。

麻生さん:たとえば同じダンスというジャンルでも、違った見られ方をするダンスがありますよね。認知度や理解度が低い、よくわからないことを一生懸命やるより、もっとわかりやすいことを頑張った方がいいんじゃないか?と思ったりする。好きな気持ちはもちろんあるんだけど、周りからの見られ方や経験としての価値などを打算的に考えてしまう気持ちもあって、自分の中でせめぎ合いが生まれるようにも思う。

山本さん:そう。結局、僕はフォークダンスを好きになりきれなかったんです。でも、最近はそれも悪いことじゃないと思うようになりました。あくまでも僕が価値を見出せなかっただけで、フォークダンスそのものに価値がないわけではない。それこそ優劣じゃなく志向に「違い」があっただけで、僕の気持ちも、フォークダンスも、どちらも否定するものじゃないな、と。
麻生さんがシラットに感じている魅力も、僕には理解しきれない可能性が高い。でも「わからないからもういい」で終わりたくないんです。

融合の先に生まれる新しい価値と可能性

山本さん:シラットもある種の演舞、表現力を問われる競技でもありますよね。麻生さん自身がプレーヤーとしてシラットをやっている時って、どんなことを意識されているんですか?

麻生さん:日本人らしさ、でしょうか。シラットには基本の型が定まっているんですが、国ごとの特徴や雰囲気みたいなものはあるんです。だから僕は、日本人としての感性や理解のもとに、シラットの表現を追求する。それが評価されたら、とてもうれしいです。
逆に言うと、やっぱり日本人の僕に、現地におけるシラットの価値や受け止め方を100%理解することはできないとも思っています。だからこそ、日本人のフィルターを通したシラットを表現していきたい、というか。

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山本さん:完全には理解できないことを自覚しているのが、すごく興味深いです。「違い」があるのを認めて、受け入れたうえで、新しいものをつくっているんですね。

麻生さん:インドネシアにおけるシラットって、本当に日本の空手や柔道のようなもので、現地では5歳くらいから習い始めるんですよ。そんな彼らと渡り合うのに、同じ考え方、同じやり方では、到底、太刀打ちできません。現地の文化や価値観、日本の文化や価値観、それに僕自身の価値観を織り交ぜながら、シラットに向き合っていきたいと思っています。

「理解できない」と認めることは、ある種の強さを生む。
否定じゃない。拒否でもない。
ただそこにある「違い」を受け入れ、そこから育めるものを見つけ出す。
その先にある可能性を見てみたいから。

誰のために、何のためにシラットを普及させるのか?

山本さん:ところで、麻生さんがシラットを続けているもうひとつのモチベーションって何なんですか?

麻生さん:一緒にシラットに励んでいる仲間に活躍の場を広げたい、ということかな。認知向上と普及と言えばそこまでなんですけど。
たとえば、日本でシラットの大会を開催しようという構想があるんですが、競技人口が少ないから開催しても盛り上がらないから難しい…という発想になるんです。でも、国際大会は認知度を上げる機会でもあって、そういう場が競技人口を増やすきっかけになる。にわとりたまごのような話ですが、今、シラットに携わっている人たちのためにも、やっぱりもっと普及させていきたいなと思うんです。

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山本さん:確かに、大会が増えれば実践の場が増えるし、トッププレーヤーを見ることが技術向上や交流の場を拡大するのにもつながりそうですよね。

麻生さん:あと、大会出場そのものがモチベーションにもなります。続けていく目標にもなるし、刺激を受ける場にもなりますよね。

山本さん:僕、マイナースポーツを普及させる目的って、競技人口を増やすためだと思っていました。でも、それだけじゃないんですね。今、シラットに携わっている人たちを大切にすることでもあるんだな、と。認知を獲得すれば見られ方も多様になるし、競技に対する向き合い方も変わるかもしれない。何の迷いもなく「シラットが好きだ」と思えるようになっていけたら、いいですよね。

シラットに励む人たちをないがしろにしない。
「好き」を守り、もっと良い状況を生み出すためにも。
今、そして未来を見つめていればこそ、一つひとつの取り組みが意味を為して光り出す。

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覚悟を決めれば、前に進める。その先に、きっと道は拓ける

山本さん:時期を見て、インドネシアに移住されて現地で起業されるって聞きました。

麻生さん:はい、シラットは向こうでも続けていく予定です。

山本さん:さらに新しい挑戦に踏み出すんですね。このメディアって「3年後に読みたくなる」って枕詞をつけているんです。僕たちくらいの年代は、趣味でも仕事でも新しい挑戦が増える時期であると同時に、自分の想いを大切にするほど、周囲と「違い」が生まれて、迷うことも多いと思うんです。そういう人たちが、迷っている今、そして乗り越えた3年後にもう一度読みたくなるコンテンツをつくりたいと考えています。
麻生さん自身もそういう立場だと思いますが、新しい挑戦をしたいと思っている人がいたら、どんな言葉をかけますか?

麻生さん:何より覚悟を決めるのが大事、かな。僕自身、いつかはインドネシアにかかわる仕事をしたいと思いながら会社員をしていたんです。でも、それではどうしても覚悟しきれなかった。だから、退路を断って言い訳できない環境に自分を置くことにしたんです。逃げ道をなくして、本気でインドネシアで仕事をしようと自分を追い込んだんですよね。

山本さん:それくらい、シラットを通してかかわりを深めていったインドネシアが好きになったから?

麻生さん:あくまで個人的な意見ですが、僕はもともと日本よりインドネシアの方がのびのびと挑戦できると感じていたんです。いろんなことに好奇心を持てたし、それが楽しく、自分自身の成長につながる実感もあった。だから、自分の可能性を追求するためにも、インドネシアを選んだってことですね。

山本さん:なるほど。だとしたら、それだけの覚悟を決められるほどに好きなものを見つける、その気持ちに確信を持てることも大切ですね。そこが揺らぐと、どうしても覚悟できないと思うから。

麻生さん:そう思います。確かに、挑戦するのも覚悟を決めるのも、簡単なことじゃありません。どんなに自分では覚悟を決めたとはいえ「何で会社を辞めてまで? 本当にいいの?」と、批判的に見る人はいました。不安にもなってしまいますよね。
でも、もし失敗してもやり直せばいいんだ、と腹をくくれたら、そういうノイズって気にならなくなります。逆に、挑戦を応援してくれる人の声が届くようになる。実際に、移住と起業を表明してから「自分もインドネシアでしたいことがあって」と声をかけてもらったりしました。その時に、自分が覚悟に値するだけの知識や姿勢を持ち合わせていないわけにはいかないじゃないですか。おのずと、本気で情報収集するようになります。
だから、覚悟は大事だけど、それは徐々に固めていってもいいものなんじゃないかな。後から行動を追いつかせるのでも、遅くはない。だから山本さんが言った通り、自分のなかで揺らがない「好きな気持ち」をきちんと見つめることが、何より大切なんだと思います。

山本さん:最初はつらいかもしれないけど、逃げ道がなくなったら前進するしかなくなりますしね。それが大変で苦労の道であっても、覚悟があれば進んでいけるでしょうし。
この対談を通して、シラットのことも知れたし、麻生さんのことをもっとわかれたような気がします。いろんな気づきがあって楽しかったです。今日はありがとうございました。

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たくさんの「違い」にさらされながら、自分の気持ちを見つめ、覚悟を決めるのは、きっとむずかしい。
でも、試さずしてあきらめるのは得策じゃない。
新しい挑戦を求める心を自覚し、とりあえず一歩踏み出してみる。
その決断を後から覚悟の瞬間にしていくのでも、決して遅くはないはずだ。

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メディア『対岸』では、”違いって、おもしろい”をコンセプトとし、魅力的な個人との対話を通して、その人にとっての違いや、違いの楽しみ方を記事にして発信していきます。
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