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東日本大震災の時も、「避難」と「補償」はセットだった 【対談】中野晃一×福山哲郎 4月16日

緊急事態宣言から約10日。感染拡大防止のための自粛・休業要請が出ている中で、政府からの十分な補償は、行き届いていません。今回は、政治学者の中野晃一さんをゲストにお迎えし、新型コロナウイルス対策に関する緊急対談を行いました。

※対談の様子はYouTubeでご覧いただけます。

4:16配信バナー

コロナの問題で、何が浮き彫りになったのか?

中野:このコロナの問題で浮き彫りになったのは「なんのために税金を払っているのか?」「政府とは何のためにあるのか?」だと思います。自粛しろ、外出するなと言われても、明日の生活のためには外に出て働かざるをえない人もたくさんいます。けれど、「外出するな」と言っておきながら補償はしない。安倍政権の、無責任さや優先順位のずれといった体質が、より一層先鋭化された形で、生死にかかわる形で出てきてしまっています。

福山:この問題は、政府の判断が少し遅れるだけで命に関わります。今もPCR検査を受けられない方がたくさんいます。具合が悪いんだけど相談センターに電話がつながらないとか。飲食店が休業したいけれども家賃や人件費があるから休業できない、休業できないけど人が入らない、がんばってくれているバイトをクビにしなければならない…そういうジレンマの中で、休業するのか、事業を続けるのか、皆が悩んでるんです。

中野:誰もが安心して家にいられるように、そのための経済政策をしなければならないわけです。そのことを年度が変わる前から野党は言っていたわけです。ところが与党は、「変えられない」「変える気がない」と、とにかく現実否認のように進んできました。それが、ここにきてようやく対応に変化が表れました。それだけ政権が揺らいできているということだと思います。連立与党にしてみても、自民党内にしてみても、政府の対応を「なんなんだこれ」と。いろいろな人の声が届くようになり始めています。

福山:でもインターネットなどでは、「野党は批判ばかり」とか、「揚げ足取りをしている」とか、「こんな状況なのに政府の足を引っ張ってけしからん」とか、野党に対する批判ばかりが目立ちます。そのような状況はどう思われますか。

中野:我々がなるべく外出しないこと、人との接触を避けること以外にコロナと闘う方法はないわけじゃないですか。そうすると政府の役割というのは、我々が外に出ないでもいいように、人と接触しなくてもいいように措置を取ること。それをやっていないことを批判するというのは当たり前のことです。命を守る闘いでもあるし、これが日本の経済を守る闘いでもある。医療を守る闘いでもある。

福山:非常事態だから国民は強いリーダーを求める。その気持ちは分からなくもありません。私も東日本大震災の時にそれを痛感しました。今思い出せば反省ばかりです。

中野:安倍さんにより権力を集めればどうにかなるとか、リーダーが強くてそれについていけばどうにかなるということではありません。とにかく人々が接触しなくてすむような政策をちゃんとやれ、ということが大事。そこは権力闘争とか、安倍さん崇拝とか、そういうレベルのことは雑音でしかない。若干ことの本質がずれすぎてるというか。安倍さんのことをみていると、当初はオリンピックだったと思うんですけれど、その後はアベノミクスを救うんだとか、そういったことが先に来てしまっています。あるいは業界団体で近いところから先に手当てをしようとか。しかもコロナ「後」の手当のことから先に話が言っていて、「そこじゃないだろ」と。

福山:実はGoToキャンペーンというのがこの補正予算に入っていてですね。これが終わったらみんなで観光しようというチケットのようなものなんですけれど。これに1兆7000億もの予算がついていることなので、本当に優先順位が間違っていると指摘していました。ひと月前から野党は「政府・与野党連絡協議会」というものをつくってもらって、野党としての政策提言を具体的にしてきました。その中ではずっと一律10万円の給付のことは言ってきたし、PCR検査の拡大も言ってきた。自粛要請や休業要請と補償はセットだというのも言い続けてきました。その必要性の認知がようやく高まってきています。そして現場の叫びがあがってきて、こうして動いてきた。なので、批判をしているのではありません。

中野:野党、特に立憲民主党などが訴えてきていることは、グローバルスタンダードです。いまコロナウイルスは地球規模で感染が拡大しており、日本だけがこの問題に直面しているわけではありません。PCR検査をちゃんとやらなければ感染の実態が掴めず、軽症・無症状だからということで放置していれば、さらに感染が拡大して院内感染や医療崩壊につながりかねません。そして、例えば外出を控え接触を避けるということは、補償とセットでなければ持ちこたえられません。それは、いろいろな国や地域での対策や政治的決断から培った、世界共通の叡智のようなものです。そうでなければ実行性を伴わないという単純な話です。自民党などは、国に強制力がないからだとか、やたらと言いたがります。でもそうではなくて、皆できれば家にいたいのです。現在の国の対応に不満を抱きながらやっている。実際に自治体から「うちも緊急事態宣言の対象にしてくれ」とか、逆転した形で出てくるような状況。それだけ安倍政権が、アベノミクスだけ救おうということをやっているうちに、日本人の健康も経済も守れないということになってきているのではないかと思います。

東日本大震災の時も、「避難」と「補償」はセットだった

福山:自分たちがやってきたことをあまり言いたくないですが、枝野代表も私も東日本大震災の時に官房長官と副長官でした。避難の指示をして、全村避難のお願いをしたりした。その人の畑や仕事や店、全部捨てて逃げてくださいというお願いをした。こんな強権的なことをやったのは戦後僕らが初めてだったかもしれない。

その時は、補償の話をし、命の危険があるからなんとかしてくださいとお願いするしかなかったんです。あの時現実に、たとえば従業員の給料の割合などについて合理的な指標をつくって補償をするとかをやった。前例はあるのでできないわけではないんです。

中野:緊急事態だということになると、強制力があるとかないとかいう議論になりがち。でも、政治の仕事は、「人とコミュニケーションをとってどう支持を得るか」「どう納得をしてもらうか」「そのためにどのように声を吸い上げるか」ということ。今のような極めて危ない状況、つまり、家にいてもらわなければならない、社会活動も経済活動も、一時的にしたってどうしたって大変だけれども我慢して支え合ってやらなければならない、そうなった時には、それを可能にするための手当てが必要だということです。

菅政権にしても、その中で汗をかかれた福山さんにしたって枝野さんにしたって、「必死になって動かさなければいけない」「人の命を守らなければいけない」、そういう使命感にかられた政治的な意志があった。でも今の政権には政治的意志が感じられない。どこに向かおうとしていてどうやって人の命を救おうとしているのかがちっとも見えてこない。

コロナの世界的流行で何が変わろうとしているのか?

中野:もうひとつは、グローバリゼーションの分岐点がきていると思います。今までのように、なんでもかんでも自由貿易で外からも入れられるというのが前提にはできなくなる。食糧とかエネルギー、今回で言えば薬や防護服、マスクでさえも、貿易を制限するという可能性が起こっている。そういう意味では工場の生産や農業について、国内でちゃんと育てなければいけないという議論が出てくる。エネルギーについても、原発ではない形で自給自足、再生可能エネルギーを一定の割合をもっていないと非常にリスクだとかいうことがわかってきました。グローバリゼーションのもろさが目の前にあらわれてきたので、そういうことに対する準備も政治としてはしていかないといけないと僕は感じています。

中野:この間、改革という美名のもとに、セーフティーネットを軽んじて、きりつめてきました。それがこういう時に響く。たしかに100年に1回の歴史的な規模での大感染であることは確かですが、グローバル化によってそういうことが起きる時代になっています。最近の災害もそう。気候変動によって、本当だったら10年・20年に一回の災害が頻発するようになっている。感染症にしたって、日本をここまで本格的に襲うのは初めてですが、SARS、MERSと、これまでありました。そのような中で、あまりにもセーフティーネットを軽んじて、人の命をおろそかにしてきた。そこを支えることが政治の役割なのに、威勢のいい「きりつめるんだ」という掛け声で、私たちの暮らしの基盤をここまで壊してきてしまった。

それを、一緒に負担しながら、一緒に支え合いながら、一緒に変えていくという政治に変えることができるかというのが課題だと思います。

福山:中野先生、今日はありがとうございました。

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